しおりんとお姫様
その日、栞は眠りに落ちる前、中世ヨーロッパの歴史書を読んでいました。
そしてその夜、彼女は奇妙な夢を見ることになります。
「むにゃむにゃ……量子生命学の……」
栞がうつらうつらしていると、突然、周りの景色が変わりました。
「んっ……ここは?」
目を開けると、そこは豪華絢爛な宮殿の一室。
栞は驚いて飛び起きましたが、自分の姿に更に驚きます。
「えっ!? これは……ドレス?」
栞は豪華な中世風のドレスを身にまとっていました。
髪も長く伸び、頭には小さな王冠が乗っています。
「まさか、私……お姫様になってる?」
戸惑う栞の元に、侍女らしき少女が駆け寄ってきました。
「栞姫様、おはようございます。本日の予定をお伝えいたします」
「え、ええと……」
栞が困惑していると、侍女は淀みなく予定を述べ始めます。
「午前中は隣国からの使者との会見、午後は新しい錬金術の発表会、夕方には杯を掲げての宴がございます」
「錬金術!?」
栞の目が輝きます。
「それは是非とも……いや、その前に。ここはどこ? 私はなぜ姫なの?」
侍女は不思議そうな顔をします。
「栞姫様? あなた様は我が国の姫君、そして最高の学者でいらっしゃいます」
「最高の……学者?」
栞は混乱しながらも、どこか嬉しそうでした。
◆
一日が過ぎていく中、栞は徐々に「栞姫」としての役割に慣れていきます。特に錬金術の発表会では、自身の量子力学の知識を中世風にアレンジして説明し、周囲を驚かせました。
「物質の最小単位である"原子"は、実は更に小さな粒子から成り立っているのです。そして、その粒子は波のような性質も……」
聴衆は栞姫の斬新な理論に熱狂します。
宴の最中、栞は庭園で一息つきました。
夜空を見上げると、そこには見慣れない星座が輝いています。
「不思議だな……夢なのに、こんなにリアルで……」
そのとき、栞の耳に聞き覚えのある声が届きました。
「しおりん! しおりん!」
「この声は……扇華?」
栞が声のする方を振り向いた瞬間、景色がぐるぐると回り始めました。
◆
「しおりん、大丈夫? こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
目を開けると、そこには心配そうな顔をした扇華がいました。
栞は自分の部屋のベッドから床に落ちて寝ていたのです。
「あれ? 扇華……やっぱり夢、だったのか」
栞は少し残念そうな表情を浮かべます。
「どんな夢を見てたの?」
扇華が興味深そうに尋ねます。
栞は少し照れくさそうに答えました。
「私が……お姫様で、でも科学者でもあるっていう不思議な夢」
扇華はくすっと笑います。
「それ、現実とあんまり変わらないんじゃない? しおりんは私たちのお姫様みたいな存在だもん」
栞は顔を赤らめながらも、嬉しそうに微笑みました。夢の中での体験は、彼女に新たな発想と勇気を与えてくれたのでした。
「さあ、今日も一日、がんばろう!」
栞と扇華はにっこりと微笑み合いました。
(了)
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