しおりんとお姫様

 その日、栞は眠りに落ちる前、中世ヨーロッパの歴史書を読んでいました。

 そしてその夜、彼女は奇妙な夢を見ることになります。


「むにゃむにゃ……量子生命学の……」


 栞がうつらうつらしていると、突然、周りの景色が変わりました。


「んっ……ここは?」


 目を開けると、そこは豪華絢爛な宮殿の一室。

 栞は驚いて飛び起きましたが、自分の姿に更に驚きます。


「えっ!? これは……ドレス?」


 栞は豪華な中世風のドレスを身にまとっていました。

 髪も長く伸び、頭には小さな王冠が乗っています。


「まさか、私……お姫様になってる?」


 戸惑う栞の元に、侍女らしき少女が駆け寄ってきました。


「栞姫様、おはようございます。本日の予定をお伝えいたします」

「え、ええと……」


 栞が困惑していると、侍女は淀みなく予定を述べ始めます。


「午前中は隣国からの使者との会見、午後は新しい錬金術の発表会、夕方には杯を掲げての宴がございます」


「錬金術!?」


 栞の目が輝きます。


「それは是非とも……いや、その前に。ここはどこ? 私はなぜ姫なの?」


 侍女は不思議そうな顔をします。


「栞姫様? あなた様は我が国の姫君、そして最高の学者でいらっしゃいます」


「最高の……学者?」


 栞は混乱しながらも、どこか嬉しそうでした。



 一日が過ぎていく中、栞は徐々に「栞姫」としての役割に慣れていきます。特に錬金術の発表会では、自身の量子力学の知識を中世風にアレンジして説明し、周囲を驚かせました。


「物質の最小単位である"原子"は、実は更に小さな粒子から成り立っているのです。そして、その粒子は波のような性質も……」


 聴衆は栞姫の斬新な理論に熱狂します。


 宴の最中、栞は庭園で一息つきました。

 夜空を見上げると、そこには見慣れない星座が輝いています。


「不思議だな……夢なのに、こんなにリアルで……」


 そのとき、栞の耳に聞き覚えのある声が届きました。


「しおりん! しおりん!」

「この声は……扇華?」


 栞が声のする方を振り向いた瞬間、景色がぐるぐると回り始めました。



「しおりん、大丈夫? こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」


 目を開けると、そこには心配そうな顔をした扇華がいました。

 栞は自分の部屋のベッドから床に落ちて寝ていたのです。


「あれ? 扇華……やっぱり夢、だったのか」


 栞は少し残念そうな表情を浮かべます。


「どんな夢を見てたの?」


 扇華が興味深そうに尋ねます。

 栞は少し照れくさそうに答えました。


「私が……お姫様で、でも科学者でもあるっていう不思議な夢」


 扇華はくすっと笑います。


「それ、現実とあんまり変わらないんじゃない? しおりんは私たちのお姫様みたいな存在だもん」


 栞は顔を赤らめながらも、嬉しそうに微笑みました。夢の中での体験は、彼女に新たな発想と勇気を与えてくれたのでした。


「さあ、今日も一日、がんばろう!」


 栞と扇華はにっこりと微笑み合いました。


(了)

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