しおりんの七変化

「ねえ、しおりん?」

「……」

「しおりん?」


 扇華の問いかけに、栞はまったく応えません。

 どうやら今読んでる本がとても面白くて何も聞こえていないようです。


「……! そうだ、いいこと思いついた!」


 扇華は何やらにっこり笑うと、そーっと栞の背後に近づきました。

 それから約1時間後。


「はー……これはなかなか興味深い論文だったな。でもこれだとまだ反証可能なところがあ……って、なにこれ!?」


 本から顔をあげて正面の鏡を見た栞は驚きます。

 栞のサラサラロングヘアーがいつの間にか、超絶に編み込まれたすごく可愛いヘアスタイルになっていたのです。


「どーお、可愛いでしょう?」

「お、扇華、いつの間に!?」

「だってしおりん話しかけてもぜんぜん反応しないんだもーん、つまんかったんだもーん、でも可愛いでしょ?」

「……ん、可愛い……」

「でしょ?」


 扇華が得意げに言います。

 栞は鏡の前で頭を左右に傾けながら、新しいヘアスタイルを観察しています。


「確かに……可愛いけど……」

「じゃあ、次はこれを試してみよう!」


 扇華は目を輝かせながら、栞の髪に手を伸ばします。


「え? まだやるの?」

 栞が驚いた様子で尋ねますが、扇華はすでに作業を始めています。

 数分後、栞の髪は優雅なアップスタイルに変わっていました。


「わぁ!」


 扇華が興奮した声を上げます。


「しおりん、すっごく可愛い! まるでお姫様みたい!」


 栞は少し赤面しながら、鏡を覗き込みます。


「ん……これは……なかなか……」

「次はツインテールにしてみよう!」


 扇華は止まりません。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 栞の言葉も空しく、扇華の手が素早く動きます。

 あっという間に、栞の髪は可愛らしいツインテールに。


「きゃー!」


 扇華が悶絶します。


「しおりん、最高に可愛い! もう、食べちゃいたいくらい!」


 栞は真っ赤な顔で「も、もういいよ……」と言いますが、エンジンのかかった扇華の熱意は収まりません。


「次は編み込みサイドポニーテール!」

「フェアリーテール風アレンジ!」

「ロマンティックハーフアップ!」

「基本の三つ編みおさげ!」


 次々と新しいヘアスタイルが完成するたびに、扇華は「可愛い!」「素敵!」「最高!」と歓声を上げ、悶絶します。


 栞はすっかり諦めた様子で、扇華の好きにさせています。

 しかし、内心では少しずつ楽しさを感じ始めているようです。


「ねえ、扇華」


 栞がふと言います。


「こういうのって……結構楽しいんだね」


 扇華は嬉しそうに微笑みます。


「でしょう? おしゃれって素敵なんだよ。しおりんが喜んでくれて嬉しい!」


 二人は顔を見合わせて笑いました。その日の夕方まで、栞の部屋は楽しい笑い声と、扇華の「可愛い~!」という歓声で溢れていたのでした。

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