しおりんと昔遊び

 梅雨の晴れ間、栞の家の物置を片付けていた栞と扇華は、古びた段ボール箱を見つけました。


「これ、何だろう?」


 栞が箱を開けると、中から様々な懐かしい遊び道具が出てきました。


「わあ、見て!」


 扇華が目を輝かせながら、箱の中身を取り出します。


「おはじき、あやとり、けん玉……懐かしいね」


 栞は少し困惑した表情で道具を眺めています。


「へえ、こんなのがあったんだ。でも、どうやって遊ぶの、これ?」

「えっ?」


 扇華は驚いた様子で栞を見ます。


「しおりん、これで遊んだことないの?」


 栞は少し恥ずかしそうに答えます。


「うん……小さい頃から本を読むのが好きで、あまり外で遊ばなかったから……あ、でもけん玉はこの前扇華とやったから覚えてるよ!」


 扇華は優しく微笑みます。


「そっか。じゃあ、今日は私が教えてあげる!」

「え? 今からやるの?」


 栞は少し戸惑いを見せます。


「もちろん!」


 扇華は元気よく答えます。


「せっかく見つけたんだもの。楽しもうよ!」


 栞は少し考えてから、小さく頷きました。


「うん、わかった。やってみよう」


 こうして、二人の「昔遊び探求」が始まりました。最初は戸惑う栞でしたが、扇華の熱心な指導と励ましで、少しずつ昔の遊びの面白さに目覚めていきます。


「おはじきって、意外と物理法則が関係してるんだね」


 栞が真剣な表情で言います。

 扇華はくすっと笑います。


「しおりんらしいな。でも、それも遊びの楽しさの一つだよ」


 二人は時間を忘れて遊び続けました。窓の外では、梅雨の晴れ間の陽光が二人を優しく照らしています。


 おはじきで遊んだ後、二人はあやとりに挑戦することにしました。扇華が器用に糸を操る様子を、栞は真剣な眼差しで観察しています。


「ほら、こうやって指を動かすの」


 扇華が説明しながら、糸で「ねこのひげ」の形を作ります。

 栞は慎重に糸を指に掛け、扇華の動きを真似しようとしますが、うまくいきません。


「むむ……」


 栞は眉間にしわを寄せて考え込みます。


「この糸の動きには、何か法則があるはずだ……」

 扇華は優しく笑います。


「しおりん、そんなに難しく考えなくていいよ。感覚で楽しむのも大切だよ」

「感覚……か」


 栞はゆっくりと頷きます。


「科学的アプローチだけじゃないってことだね」


 扇華の言葉に励まされ、栞は何度も挑戦します。失敗を重ねるたびに、少しずつコツをつかんでいきます。


「あ! できた!」


 栞が嬉しそうに声を上げます。彼女の指の間に、小さな「やまびこ」の形が浮かび上がりました。


「やったね、しおりん!」


 扇華が拍手します。


「すごく上手だよ」


 栞の顔に、珍しく大きな笑顔が広がります。


「不思議……。数式じゃなくて、体で覚えていく感じが……」

「そうそう、それが遊びの醍醐味なんだよ」


 扇華が嬉しそうに言います。


 二人はさらに複雑な形に挑戦し始めました。失敗しては笑い、成功しては喜び合います。栞の部屋に、二人の楽しそうな声が響きわたります。


 モウモウは興味深そうに二人を見つめ、時折糸に前足を伸ばそうとしています。


「あ、モウモウ。だめだよ」


 栞が優しく制します。


「でも……モウモウの爪でも、きっと面白いあやとりができるんだろうな」


 扇華はその言葉を聞いて、くすくすと笑います。


「しおりんったら、相変わらず面白いこと言うね」


 春の柔らかな陽光が部屋を包む中、栞と扇華の「あやとり探求」は続いていきました。科学と遊びが融合する、彼女たちならではの時間が流れていくのでした。

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