しおりんとロールシャッハ・テスト
ある雨の日の午後、
栞の部屋で退屈を持て余していた栞と扇華は、本棚から偶然見つけた心理学の本を眺めていました。
「ねえ、しおりん。この『ロールシャッハ・テスト』って知ってる?」
扇華が興味深そうに尋ねました。
栞は少し考え込むような表情を浮かべて答えます。
「ああ、インクの染みを見て何に見えるか答えるやつだね。性格診断に使われるんだけど、科学的根拠は薄いって批判もあるんだよ」
「へえ~。でも、ちょっと面白そうじゃない? やってみない?」
栞は少し躊躇しましたが、扇華の興味津々な様子に負けて同意しました。
「まあ、お遊びならいいか。でも、結果は気にしないでね。これは本当の性格診断じゃないから」
二人は早速、本に載っているインクの染み絵をコピーして準備を整えました。
「じゃあ、私から始めるね」
扇華が言って、最初の図版を手に取りました。
扇華は真剣な表情で図版を見つめ、しばらくして口を開きました。
「うーん、これは……二匹の猫が向かい合っているように見えるかな。でも、よく見ると、その猫たちが手を取り合っているみたい」
栞は少し驚いた様子で扇華の答えをメモしました。
「なるほど。具体的だね。次は私の番か」
栞は図版を受け取り、客観的に観察しようと努めます。
しかし、彼女の答えも意外なものでした。
「これは……星雲の中で新しい星が生まれているところ。そして、その周りを電子が軌道を描いて回っている」
扇華は目を丸くして栞を見つめました。
「わあ、しおりんらしい答えだね。でも、なんだか普段の冷静なしおりんとは違う感じがするな」
二人は顔を見合わせ、くすっと笑いました。
テストは進んでいきます。
図版を見るたびに、二人の答えはますます興味深いものになっていきます。
「これは……」
扇華は首を傾げながら言います。
「なんだか、たくさんの人が手をつないで輪になっているように見えるわ。でも、よく見るとその輪が螺旋を描いて上に伸びていくの」
栞は驚いた様子で扇華の回答をメモしながら、「へえ、面白い見方だね。人と人とのつながりを大切にしているってことかな」とコメントしました。
次は栞の番です。
彼女は図版をじっと見つめ、少し照れくさそうに答えます。
「これは……小さな生き物たちが力を合わせて、大きな機械を動かしているように見えるな。まるで、宇宙船を操縦しているみたい」
扇華は目を輝かせて答えました。
「すごい! しおりんの頭の中はいつもSFみたいなんだね」
テストが進むにつれ、二人の回答はますます深みを増していきました。扇華の回答からは、人々との関わりを大切にする優しさや、未来への希望が感じられます。一方、栞の回答からは、彼女の科学への情熱や、想像力豊かな一面が垣間見えました。
最後の図版を見終えた後、二人は少し沈黙しました。
「ねえ、しおりん」
扇華が静かに言いました。
「なんだか、お互いのことをもっと深く知れた気がしない?」
栞も頷きます。
「うん、確かに。扇華は普段は明るくて社交的だけど、実は繊細で深い思考を持っているんだってことが伝わってきた」
「しおりんだって」
扇華が笑顔で言います。
「いつも論理的で冷静だと思っていたけど、意外にすごくロマンチックな一面があるんだね」
二人は顔を見合わせ、くすっと笑いました。
「でも、これって本当に性格がわかるテストなのかな?」
栞が首をかしげます。
「さあ、どうだろう」
扇華が答えます。
「でも、これをきっかけに、お互いの新しい一面を発見できたからいいんじゃない?」
栞は少し考え込んでから言いました。
「そうだね。科学的な根拠は薄いかもしれないけど、こういう風に互いを知るきっかけになるなら、それはそれで意味があるのかもしれない」
扇華は嬉しそうに頷きました。
「うん、私もそう思う!」
この日の「お遊び」は、思いがけず二人の友情をより深めるきっかけとなりました。
時には、科学的でないものでも、人と人とを繋ぐ大切な役割を果たすことがある……そんなことを、栞はちょっとだけ学んだのでした。
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