卵が先かニワトリが先か、それともしおりんが先か

 穏やかな日曜日の午後、栞は自室で量子力学の本を読みふけっていました。窓から差し込む柔らかな陽光が、彼女の長い髪を優しく照らしています。そんな中、突然栞の目が大きく見開かれました。


「そうか! わかった!」


 栞は興奮して立ち上がり、ホワイトボードに向かって複雑な方程式を書き始めました。その動きに驚いたモウモウが、警戒するように尻尾を膨らませています。


 数時間後、扇華が栞の家を訪れました。


「しおりん、こんにちは! ……あれ? どうしたの? すごい顔して」


 扇華が部屋に入ると、栞は目を輝かせながら振り返りました。


「扇華! ちょうどよかった。大発見したんだ!」

「へぇ、また何か難しいことを解明したの?」


 扇華は少し困惑しながらも、興味深そうに栞の方に近づきました。


「うん! 『卵が先かニワトリが先か』という問題の答えが分かったんだ!」


 扇華は目を丸くして驚きました。


「えっ? あの、ずっと議論されてきた問題?」


 栞は嬉しそうに頷きます。


「そう! 量子力学と進化生物学を組み合わせて考えたら、答えが見えてきたんだ」


 扇華は半信半疑の表情を浮かべながらも、栞の説明に耳を傾けることにしました。


「じゃあ、答えは何なの? 卵? それともニワトリ?」


 栞は得意げに微笑むと、ゆっくりと口を開きました。


「実は……なんだ!」


 扇華は首を傾げました。


「え? どういうこと?」


 栞はホワイトボードを指さしながら、熱心に説明を始めました。


「ここがポイントなんだけど、量子力学の重ね合わせの原理を進化の過程に適用してみたんだ。つまり、卵とニワトリは量子的に重ね合わさった状態で同時に存在していたという仮説を立てたんだよ」


 扇華は眉をひそめながら、必死に理解しようとしています。


「うーん、難しいなぁ。もう少し分かりやすく説明してくれない?」


 栞は少し考え込んでから、再び話し始めました。


「そうだね……こう考えてみて。進化の過程で、"ニワトリのような生物"から"現代のニワトリ"への変化は、一世代で急激に起こったわけじゃないんだ。何百万年もの時間をかけて、少しずつ変化していったんだよ」

「なるほど……」


 扇華は頷きながら聞いています。


「その長い過程の中で、ある時点で"ほぼニワトリ"と呼べる生物が、"ほぼニワトリの卵"を産んだ。そしてその卵から孵化したのが、現代のニワトリと呼べる個体だったんだ」


 扇華の目が少し輝き始めました。


「あ! なんとなく分かってきた気がする」


 栞は嬉しそうに続けます。


「そう! でも、ここがミソなんだ。量子力学的に考えると、その"ほぼニワトリ"と"現代のニワトリ"の境界線は、実は明確に引けないんだよ。両者は量子的に重ね合わさった状態で存在していて、観測した瞬間にどちらかに決まる……というわけさ」


 扇華はため息をつきました。


「う~ん、やっぱり難しいなぁ。でも、なんとなく凄そうなことは分かるよ」


 栞は少し照れくさそうにほっぺをかきます。


「ごめんね、ちょっと説明が難しくなっちゃった。でも、この理論を使えば、"卵が先"とも"ニワトリが先"とも言えるし、同時に両方が正しいとも言えるんだ」


 扇華は感心したように頷きました。


「へぇ~。しおりんって本当にすごいね。こんな難しい問題を解決しちゃうなんて」


 栞は嬉しそうに微笑みました。


「ありがとう、扇華。でも、これはまだ仮説の段階だから、もっと研究を重ねないといけないんだ」


 そう言いながら、栞は再びホワイトボードに向かい、新たな方程式を書き始めました。扇華は少し困惑しながらも、友人の熱心な姿に微笑みを浮かべています。


 モウモウは二人の会話を聞きながら、まるで「人間って難しいことを考えるんだなぁ」とでも言いたげに、大きなあくびをしていました。

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