しおりんの超万能リモコン大作戦
ある日の午後、栞は自室で何やら複雑な回路を組み立てていました。彼女の周りには電子部品や工具が散らばり、ノートには数式と設計図が所狭しと書き込まれています。
「よし、これで理論上は完璧なはず…」
栞は満足げにつぶやきました。
そこへ、扇華が訪ねてきました。
「しおりん、こんにちは! また何か作ってるの?」
栞は目を輝かせながら答えます。
「うん! 今回は超万能リモコンを開発したんだ!」
扇華は首をかしげます。
「超万能リモコン? それって、テレビとかエアコンを操作するやつ?」
栞は得意げに説明を始めました。
「そう、でもそれだけじゃないんだ。このリモコンは、理論上どんな電子機器でも操作できるはず。しかも、音声認識と人工知能を搭載しているから、複雑な指示も理解できるんだよ」
扇華は感心しつつも、少し不安そうな表情を浮かべます。
「すごいね……でも、大丈夫なの?」
栞は自信満々に答えます。
「もちろん! さあ、試してみよう」
栞はリモコンを手に取り、「テレビをつけて」と命令します。
するとテレビが見事にオンに。
次に「エアコンの温度を2度下げて」と言うと、エアコンの設定温度が下がりました。
これは超便利です。
扇華は驚きの声を上げます。
「わあ、すごい! 本当に動いた!」
栞はさらに実験を続けます。
「電子レンジで1分30秒温めて」「洗濯・脱水・乾燥を自動でやって」など、次々と命令をこなしていきます。
しかし、調子に乗った栞が「家中の電気を全部つけて」と命令すると、突然家中の電気が激しく点滅し始め、異様な音が鳴り響きました。
「あれ? ちょっと待って……」
栞の声が震えています。彼女の指が超万能リモコンのボタンを慌ただしく押し始めます。画面に表示される文字や数字が意味不明なシンボルに変わり、リモコン自体が微かに震え始めました。
突然、家中から様々な音が鳴り響き始めます。リビングのテレビが勝手にチャンネルを切り替え、音量が上下に激しく変動します。キッチンからは電子レンジのチンという音と冷蔵庫のアラーム音が同時に鳴り、洗濯機が激しく回転を始めました。
栞の部屋では、デスクライトが点滅を繰り返し、パソコンの画面にはランダムな文字列が高速で流れています。天井の扇風機が最高速で回転し始め、エアコンは暖房と冷房を交互に切り替えています。
家全体が制御を失った電化製品のシンフォニーと化し、まるで意志を持ったかのように暴走しています。
栞は目を見開いて部屋を見回し、汗が額を伝います。
「こ、こんなはずじゃ……」
彼女の声は周囲の騒音にかき消されそうです。
一方、扇華は最初の驚きを乗り越え、冷静さを取り戻しつつあります。彼女は部屋の中央に立ち、周囲の状況を素早く分析しています。家中の狂騒にもかかわらず、彼女の声は穏やかです。
「しおりん、どうしたらいいの? 冷静に考えよう」
扇華は栞の肩に手を置き、彼女の目を見つめます。その仕草には、パニックに陥りそうな栞を落ち着かせようという意図が感じられます。
栞は深呼吸をして、頭を整理しようとします。しかし、彼女の手の中でリモコンが突然青白い光を放ち、熱を持ち始めます。
「まずい、過負荷がかかってる!」
栞の声には焦りが混じっています。彼女はリモコンを机に置き、工具を手に取ります。
「システムをリセットしなきゃ……でも、この状態じゃ……」
「落ち着いて、しおりん。一つずつ考えよう。まず、電源を切る方法は?」
「そうだね……えっと……」
彼女の言葉が途切れたその時、家中の電化製品がさらに激しく動き始め、まるで反乱を起こしたかのような状況になります。二人の前には、思いもよらない難題が立ちはだかっているのでした。
栞と扇華は顔を見合わせ、同時に「ブレーカー!」と叫びました。
二人で急いで家中のブレーカーを落とし、ようやく静寂が戻ってきました。
真っ暗な中、栞はため息をつきます。
「ごめん、扇華……ちょっと調整が必要みたい」
扇華は優しく微笑みます。
「大丈夫だよ、しおりん。でも、次は事前テストをしっかりしようね」
栞は少し恥ずかしそうに頷きます。
「うん、そうだね。でも、基本的な機能は動いたから、もう少し改良すれば……」
扇華は軽くため息をつきながらも、栞の情熱に微笑みます。
「わかったわ。でも今日はもう遅いから、明日続きをしようよ」
二人は暗闇の中で笑い合い、片付けを始めました。モウモウは静かに二人を見守りながら、人間の作る不思議な道具に首をかしげているようでした。
結局、栞の超万能リモコンは完成までにもう少し時間がかかりそうです。しかし、この経験は彼女の科学への情熱をさらに燃え上がらせ、新たな挑戦への第一歩となったのでした。
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