しおりんの眠りへの飽くなき探求
ある金曜日の夜遅く、栞と扇華は栞の部屋で夜更かしをしていました。扇華が大きなあくびをすると、栞は突然興味深そうな表情を浮かべました。
「ねえ扇華、人間はなぜ眠るんだろう?」
扇華は少し驚いた様子で答えます。
「え? 疲れたからじゃないの?」
栞は目を輝かせながら説明を始めました。
「それも一因だけど、実はもっと複雑なんだ。睡眠には多くの謎が残されているんだよ」
栞はベッドに座り、膝の上にノートを広げます。
扇華も隣に座り、興味深そうに聞き入ります。
「まず、睡眠には大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠があるんだ」
栞は図を描きながら説明します。
「ノンレム睡眠は体を休める役割があって、レム睡眠は脳を休める役割があるんだけど……」
栞は睡眠の各段階について詳しく説明し始めました。
脳波の変化、ホルモンの分泌、体温の変動など、次々と睡眠に関する科学的知見を語ります。
「面白いのは、睡眠中の夢の役割なんだ。記憶の整理や感情の処理に関わっているという説があるんだけど、まだ完全には解明されていないんだよ」
扇華は頷きながらも、少し眠そうな様子です。
「へえ、知らなかった……」
栞は気づかずに続けます。
「それに、動物によって睡眠のパターンが全然違うんだ。例えばイルカは……」
栞は動物の睡眠についても熱心に語り始めました。
片方の脳半球だけで眠るイルカや、わずか2時間しか眠らないキリンなど、様々な例を挙げていきます。
「人間の睡眠が進化の過程でどのように形成されてきたのかも興味深いトピックで……」
栞が話している間、扇華はうとうとし始めていました。
しかし、栞自身も徐々に声のトーンが落ち、言葉が遅くなっていきます。
「それで……睡眠負債という概念があって……これは……」
栞の言葉が一瞬途切れます。
彼女は目を大きく見開いて意識を保とうとし、再び話し始めます。
「睡眠不足が……蓄積されていくことを……表す言葉で……」
栞はゆっくりとベッドに身を沈めながらも、なおも説明を続けようとしています。
「例えば……一晩の睡眠不足は……翌日以降にも……影響を……」
彼女の言葉は次第にぼんやりとし、声量も小さくなっていきます。
栞の目は半開きになり、時折完全に閉じそうになっては慌てて開くという状態を繰り返しています。彼女の手元のノートからは、ペンがこぼれ落ちました。
「睡眠の質も……重要で……深睡眠の……割合が……」
栞の言葉はますます断片的になり、文と文の間の沈黙が長くなっていきます。
最後に、栞は小さなため息をつくと、完全に目を閉じました。彼女の頭がゆっくりと枕に沈んでいきます。それでも、彼女の唇はかすかに動いており、まるで夢の中でも睡眠について語り続けているかのようでした。
栞の呼吸は次第に深く、規則正しくなっていきます。彼女の表情は穏やかで、まるで自らが研究対象としている睡眠の神秘に包まれているかのようでした。
部屋には静寂が訪れ、栞と扇華の寝息だけが柔らかく響いています。机の上には開かれたままの睡眠に関する専門書と、半分まで書かれたノートが、栞の熱心な研究の跡を物語っていました。
窓から差し込む月明かりが、眠りについた栞の姿を優しく照らしています。彼女の寝顔は、まるで睡眠の謎を夢の中で解き明かそうとしているかのように、どこか真剣な表情を浮かべていました。
やがて扇華は目を覚まし、隣で眠りこけている栞を見て、優しく微笑みました。
「しおりん、結局自分で眠っちゃったね」
彼女はそっと栞に毛布をかけ、枕元にメモを残しました。
「睡眠の謎、明日も一緒に考えようね。おやすみ、しおりん」
扇華は静かに部屋を出て行きました。
モウモウは窓辺で、満月の光を浴びながら、眠る栞を見守っていました。モウモウは人間には理解できない、猫だけの睡眠の秘密を知っているのかもしれません。しかし、それはまた別の物語です。
この夜、栞は自らが研究対象となり、深い眠りの中で、きっと素晴らしい夢を見ていることでしょう。そして明日、目覚めたときには、新たな睡眠の謎に気づくかもしれません。それが、科学者としての栞の日常なのです。
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