しおりんの特別なかゆみ

 ある静かな土曜の午後、栞と扇華は栞の部屋で過ごしていました。栞はいつものように複雑な数式が書かれたホワイトボードの前に立ち、何かを熱心に考え込んでいます。扇華は栞の様子を見守りながら、雑誌を読んでいました。


 突然、栞が困ったような表情で扇華の方を向きました。


「ねえ、扇華」

「うん? どうしたの、しおりん?」


 扇華は雑誌から顔を上げました。

 栞は真剣な顔で尋ねます。


「頭の中がかゆいときはどうすればいいんだろう?」


 扇華は一瞬、栞の言葉の意味を理解できず、困惑した表情を浮かべました。


「え? 頭の中が……かゆい?」


 栞は頷きながら説明を始めます。


「うん。今、この方程式を解こうとしているんだけど、どうしても答えにたどり着けなくて。それで、頭の中がモヤモヤして……かゆいんだ」


 扇華はようやく栞の言わんとすることを理解し、優しく微笑みました。


「あ、なるほど。しおりんの言う『かゆい』は、モヤモヤするってことなんだね」


 栞は少し困惑した様子で首をかしげます。


「違うの? 普通、こういうとき『頭の中がかゆい』って言わないの?」


 扇華は優しく説明します。


「うーん、普通は『頭を抱える』とか『頭が痛い』って言うかな。でも、しおりんの表現、すごくユニークだと思う」


 栞は少し照れくさそうに髪をかきあげます。


「そっか……僕の感覚、やっぱり少し変わってるのかな」


 扇華は励ますように言います。


「ううん、むしろ面白いと思う。でも、その『かゆみ』を解決する方法を考えよう」


 と、言いつつ、扇華は(しおりん、今、「僕」って言ったね……)と呟きつつ、しおりん観察日記の「僕欄」に数字を足しました。


 栞は真剣な表情で頷きます。


「うん、どうすればいいと思う?」


 扇華は少し考えてから提案します。


「まず、深呼吸してリラックスするのはどう?それから、少し休憩して頭を空っぽにしてみるのもいいかも」


 栞は扇華の提案を真剣に聞いています。


「なるほど。頭の中のかゆみを和らげるために、一度思考をリセットするってことだね」


 扇華は頷きます。


「そうそう。それで、気分転換ができたら、また新鮮な気持ちで問題に取り組めると思うよ」


 栞は感心したように言います。


「扇華、すごいね。これって一種の認知リフレッシュ法とも言えるかもしれない。脳の活動パターンを一度リセットすることで、新たな発想が生まれる可能性が高まるんだ」


 扇華は楽しそうに笑います。


「ほら、もう新しいアイデアが浮かんできたみたいだね」


 栞も嬉しそうに微笑みます。


「本当だ。ありがとう、扇華。君との会話で、頭の中のかゆみが少し和らいだよ」


 扇華は優しく栞の肩に手を置きます。


「良かった。でも、本当に頭の中が物理的にかゆくなったら、すぐに病院に行こうね」


 栞は少し困惑しながらも頷きます。


「うん、わかった。でも、それって物理的に可能なのかな……」


 扇華はクスッと笑いながら、「しおりん、それはまた別の研究テーマにしようよ」と言いました。


 二人は顔を見合わせて笑い、栞は新たな気持ちで方程式に取り組み始めました。モウモウは二人のやりとりを見守りながら、まるで「人間って本当に不思議だにゃ」と言いたげに、小さくにゃーと鳴きました。

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