しおりんとギザ10の謎

 ある雨の日、栞は古い財布を整理していました。そこで偶然、使われなくなったギザ10(ギザギザの縁を持つ10円玉)を見つけます。


「へぇ、こんなところにギザ10が……」


 栞は10円玉を手に取り、じっくりと観察し始めました。

 突然、彼女の目が輝き始めます。


「待てよ……このギザギザ、単なるデザインじゃない。これは……」


 栞は急いで部屋中の本を引っ張り出し、調べ始めました。経済学、歴史、金属工学、そして暗号学の本まで。彼女の机の上はあっという間に本の山になりました。


 そこへ扇華が訪ねてきました。


「しおりん、こんにち……わあ! 何これ?」


 扇華は驚いて部屋を見回します。栞は興奮した様子で友人を迎えました。


「ちょうどいいところに来てくれた、扇華! 僕は今、ギザ10の謎に気づいたんだ!」

「ギザ10? あの昔の10円玉のこと?」


 栞は熱心に説明を始めました。


「そう! このギザギザ、実は高度な偽造防止技術なんだ。でも、それだけじゃない。このギザギザの数と間隔には、ある種の暗号が隠されているんじゃないかって思うんだ」


 扇華は困惑しながらも、興味深そうに聞いています。


「暗号? どういうこと?」


 栞はさらに熱を込めて話します。


「このギザギザの数、実は素数なんだ。そして、その間隔にはフィボナッチ数列に似たパターンが見られる。これって偶然じゃないと思うんだ」


 栞は黒板にギザギザのパターンを大きく描き、複雑な数式を書き始めました。


「もし、このパターンを行列に変換して、特定の暗号化アルゴリズムを適用すると……」


 扇華は頭を抱えます。


「ちょ、ちょっと待って、しおりん。それって本当にそんな深い意味があるの?」


 栞は少し考え込みます。


「うーん、確証はないけど……でも、こんな偶然ってあり得ないと思うんだ。もしかしたら、ギザ10には国家の重要な秘密が隠されているかもしれない!」


 扇華は優しく微笑みます。


「しおりん、それはさすがに考えすぎじゃない?」

 しかし、栞の興奮は収まりません。

 彼女は一晩中、ギザ10の研究を続けました。

 翌朝、栞は眠そうな目をしながらも、誇らしげに論文を扇華に見せます。


「見て、扇華! ギザ10の謎を解明した論文だよ。これを学会に発表しようと思うんだ」


 扇華は困ったように笑います。


「そ、そう……がんばってね」


 結局、栞の「ギザ10理論」は学会では受け入れられませんでしたが、彼女の研究熱心さと独創的な発想は多くの人を驚かせました。そして、思わぬ副産物として、彼女の研究から新しい暗号化技術が生まれたのです。


 それ以来、栞の部屋には大きなギザ10のレプリカが飾られることになりました。時々、彼女はそれを見つめながら、まだ解明されていない謎について思いを巡らせるのでした。


 そして扇華は、友人の尽きることのない好奇心と探究心に、いつも感心しながらも少し心配するのでした。


※なおギザ10のギザギザにフィボナッチ数列に似たパターンを見出したのは、単なる栞の勘違いでした。そういうこともあるよね、しおりん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る