しおりんの思考実験タイムトラベル
ある雨の日の午後、栞は自室で古い科学史の本を読んでいました。
突然、彼女の目が輝き始めました。
「思考実験の歴史って面白いな~」
栞は興奮して、隣で寝ていたモウモウを起こしてしまいました。
「ごめんね、モウモウ。でも聞いて! 思考実験の歴史を振り返ってみたら、すっごく面白いの!」
モウモウは首をかしげていますが、栞は構わず話し始めました。
「まずは有名な古代ギリシャのゼノンの逆理! アキレスと亀のレース。数学的には亀に追いつけないはずなのに、現実では追い越せちゃう。パラドックスって面白いよね」
栞は部屋を歩き回りながら、熱心に語り続けます。
「それから、ガリレオの落体の思考実験。重さの異なる物体が同時に落下するって、当時の常識を覆したんだよ。革命的だったんだね」
モウモウはあくびをしましたが、栞は気にせず続けます。
「あ、シュレーディンガーの猫の話も面白いよ! 箱の中の猫が生きているのか死んでいるのか、観測するまでわからないっていう量子力学のパラドックス」
モウモウが不思議そうな顔をして栞を見つめます。
「あ! でも、モウモウ。モウモウを箱に入れたりはしないからね、安心してね」
モウモウはかまわずまた大あくびをします。
「それから、アインシュタインのエレベーター思考実験。重力と加速度の等価性を示したんだ。これで一般相対性理論の基礎ができたんだよ」
栞はますます興奮して、声が大きくなっていきます。
「あ! マクスウェルの悪魔も忘れちゃいけないね。熱力学第二法則に挑戦する面白い思考実験だよ」
たとえモウモウが人語を解する猫でもこんなに立て続けに喋られたら理解できるかあやしいでしょう。
そのとき、ドアをノックする音が聞こえました。扇華が顔を覗かせます。
「しおりん、元気? すごい大声が聞こえたけど……」
栞は嬉しそうに扇華を部屋に招き入れました。
「扇華! ちょうどいいところに来てくれた。思考実験の歴史について話してたんだ。聞いてよ!」
扇華は少し困惑しながらも、優しく微笑みました。
「うん、聞かせて」
栞は一から説明を始めます。
扇華はわからないなりに熱心に聞いていましたが、途中で疑問が湧いてきました。
「ねえ、しおりん。思考実験って実際の実験じゃないのに、どうして科学に役立つの?」
栞は目を輝かせて答えました。
「いい質問だね、扇華! 思考実験は、現実では実行不可能な状況を想像して、理論の限界を探ったり、新しい視点を得たりするのに役立つんだ。実験の前段階として、あるいは実験が不可能な場合の代替として重要なんだよ」
扇華は感心したように頷きました。
「へぇ、そうなんだ。しおりんはこういうの本当に詳しいね」
栞は少し照れくさそうに笑いました。
「ありがとう。でも、私もいつかは自分の思考実験を考案してみたいな」
扇華は励ますように言いました。
「きっとできるよ。しおりんなら素晴らしい思考実験を思いつくはず!」
その言葉に、栞は決意を新たにしました。
「うん、頑張ってみる!」
その夜、栞は夢の中で自分の思考実験を展開していました。
「そうか、これでいいんだ! すごいぞ私! これで思考実験の歴史が変わるね!」
夢の中では素晴らしいアイデアが浮かんでいた栞ですが……。
「あれ? なんだったっけ……」
目覚めた栞はすべてをきれいさっぱり忘れていたのでした。
栞の新たな挑戦は、まず夢の中の思考実験を覚えておくことから始まりそうです。
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