しおりんの甘い誘惑

 ある穏やかな土曜日の午後、栞は自室で量子力学の難解な問題に取り組んでいました。

 集中力が切れてきた頃、彼女は机の引き出しから小さな紙袋を取り出しました。


「ふふ、ここぞという時のために取っておいた秘密兵器だ」


 紙袋の中身は、栞が大好きな高級チョコレート。

 難しい問題を解く時の気分転換として、秘蔵していた大事なチョコです。。


「よし、一つだけ食べて、気分転換しよう」


 栞はチョコレートを一つ口に入れました。

 その瞬間、幸せそうな表情が広がります。


「美味しい……」


しか し、その美味しさが仇となりました。

 栞は「もう一つだけ」と思いながら、次々とチョコレートを口に運んでいきます。


 気がつけば、紙袋は空になっていました。


「あれ? やばい、全部食べちゃった……」


 栞は突然の罪悪感と、胃の重さを感じました。

 そして、何よりも恐ろしいのは、激しい眠気が襲ってきたことです。


「う……眠い……でも、この問題を解かないと……」


 栞は必死に目を擦りながら、問題に取り組もうとします。

 しかし、チョコレートの糖分の影響で、頭がぼーっとして集中できません。


「まずい……こんなことでピンチになるなんて……」


 栞は机に突っ伏し、眠気と戦いながら呻いていました。

 そんな時、部屋のドアがノックされました。


「しおりん? いる?」


 扇華の声がします。栞は慌てて起き上がろうとしましたが、急な動きで目眩がしてしまいます。


「……います……」


 扇華が部屋に入ってくると、栞の異変にすぐ気づきました。


「しおりん? 大丈夫? 顔色悪いよ?」


 栞は恥ずかしそうに状況を説明しました。

 扇華は最初は驚きましたが、すぐに優しい笑顔を浮かべました。


「もう、しおりんったら。そんなことでピンチになるなんて」


 扇華はすぐに行動を起こしました。

 まず、窓を開けて新鮮な空気を入れ、次に栞にお茶を入れてきました。


「はい、これを飲んで。それと、ちょっと横になろうか」


 栞は素直に扇華の言葉に従いました。

 扇華は栞の額に冷たいタオルを置き、優しくさすりながら言いました。


「大丈夫だよ。少し休めば元気になるから。それに、たまにはこういうこともあるよね」


 栞は申し訳なさそうに言いました。


「ごめんね、こんなことで……」


 扇華は優しく微笑みました。


「いいの、いいの。それより、次からは一緒にチョコレート食べようね。二人なら食べ過ぎないはずだから」


 栞も少し笑顔になりました。


「うん、そうする」


 そうしているうちに、栞の目が徐々に閉じていきました。扇華は静かに栞の横に座り、彼女が眠るのを見守っています。


 数時間後、栞が目を覚ますと、気分はすっかり良くなっていました。


「扇華……ありがとう」


 栞は心からの感謝を込めて言いました。

 扇華は明るく笑いました。


「どういたしまして。さあ、お腹空いたでしょ? 今日は私が作ったヘルシーディナーをごちそうするよ!」

 

 この日以来、栞は甘いものを食べる時には必ず扇華に連絡するようになりました。時には失敗も、人を思いやる心と友情を強くする機会になるのです。

 そして、栞と扇華の絆は、甘くて温かいチョコレートのように、さらに深まっていったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る