しおりんは違いがわかる女!

 ある平和な日曜日の午後、栞は自室で例によって量子力学の本を読んでいました。

 しかし、その集中力は突如として別の疑問によって乱されてしまいます。


「そういえば……」


 栞は本から顔を上げ、天井を見つめました。


「おにぎりとおむすびって、何が違うんだろう?」


 この突然の疑問に、栞の科学者魂が火をつけられました。

 彼女は本を閉じ、ノートとペンを手に取りました。


「よし、徹底的に調べてみよう!」


 栞はまず、インターネットで検索を始めました。

 しかし、明確な違いを示す情報は見つかりません。


「うーん、これは現地調査が必要かもしれない」


 栞は珍しく外出を決意し、近所のコンビニへ向かいました。年に一度、あるかないかの珍事です。

 そこで彼女は、「おにぎり」と「おむすび」と書かれた商品を注意深く観察します。


「形は同じ……具材も似ている……いったい何が違うの?」


 帰宅した栞は、さらに調査を進めます。

 料理の歴史書を引っ張り出し、古代から現代までのおにぎりの変遷を追いかけます。


「平安時代には『握り飯』と呼ばれていたのか……でも、それがいつから『おにぎり』と『おむすび』に分かれたんだろう?」


 栞の部屋には、おにぎりとおむすびに関する資料や図表が溢れかえっていました。

 モウモウは、そんな栞の様子を不思議そうに見つめています。


 そんな時、扇華が栞の家を訪れました。


「しおりん、こんにちは! ……あれ、何してるの?」


 栞は真剣な表情で答えました。


「おにぎりとおむすびの違いを探求しているのだ!」


 扇華は少し驚いた様子で応えました。


「え? あたし知ってるよ?」

「本当か! 扇華! 教えてくれ!」


 栞は突然、扇華に向かって飛びつきました。

 その勢いに驚きつつも、扇華は栞の熱心な様子に微笑みを浮かべました。

「可愛いなあ」と心の中でつぶやきながら、扇華は栞の両肩に手を置いて落ち着かせました。


「まあまあ、そんなに興奮しないで」


 扇華は優しく言いました。


「あたしもお母さんから教えてもらったんだけど……」

「うんうん」


 栞は目を輝かせて、扇華の言葉に耳を傾けます。


「おにぎりはぎゅっと握って作るの。でも、おむすびはぎゅっと握らずほんわかと握って作るんだって!」


 栞は驚きの表情を浮かべました。


「そんな単純なことだったの?でも、本当かな……」


 扇華は自信たっぷりに答えます。


「じゃあ、実際に作って食べ比べしてみましょう!」


 二人は台所に移動し、お米を用意しました。

 扇華が丁寧に作り方を説明しながら、おにぎりとおむすびを作っていきます。


「ほら、おにぎりはこうやってぎゅっと握るの。おむすびは優しく包み込むように……」


 栞は真剣な表情で扇華の手の動きを観察していました。

 完成したおにぎりとおむすびを前に、二人は緊張の面持ちで一口ぱくり。

 栞の目が突然大きく見開かれました。


「おお!」


 栞は驚きの声を上げました。


「おんなじお米と具材なのに食感が全然ちがーう!」


 扇華は嬉しそうに笑いました。


「でしょ? おにぎりはちょっと締まった感じで、おむすびはふんわりしてるでしょ?」


 栞は感動のあまり、「すごーい! すごーい!」と何度もおにぎりとおむすびを交互に食べ比べていました。


 やがて栞はにっこりと扇華に微笑みました。


「えへへ、これであたしもおにぎりとおむすびの違いがわかったよ!」


 栞は得意げに宣言しました。


「違いのわかる女だね!」


 扇華も嬉しそうに頷きます。


「そうだね、しおりん。立派に違いのわかる女になったよ!」


 二人は見つめ合い、もう一度にっこりと笑顔を交わしました。栞の科学的探究心と扇華の生活の知恵が見事に融合した瞬間でした。モウモウも、二人の楽しそうな様子を見てゴロゴロと喉を鳴らしています。


この日の出来事は、栞にとって新たな発見の喜びと、日常の中にある小さな驚きの大切さを教えてくれる、かけがえのない思い出となったのでした。

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