しおりんの熱狂オタク日和

 ある土曜日の朝、栞は珍しく早起きしていた。この日は、彼女が長い間待ち望んでいた新作ゲームの発売日だったのだ。


「よし、準備は万端!」


 栞は満足げに自分の部屋を見回した。テレビの前には最新のゲーム機が設置され、その横には大量のエナジードリンクと軽食が積まれていた。壁には新作ゲームのポスターが貼られ、机の上には攻略本が山積みになっていた。


「これで24時間ノンストップでプレイできるはず……」


 そう呟いた瞬間、スマホの通知音が鳴った。


「えっ!? まさか……」


 画面を確認すると、栞の顔が驚きと興奮で輝いた。


「『あの伝説の新シリーズが今日から10年ぶりに配信開始!? しかも、『魔法少女ルナ☆ルナ』の劇場版も今日公開!?」


 栞の脳裏で、ゲーム、アニメ、映画の優先順位が激しくせめぎ合う。


「どうしよう……どうしよう……全部見たい……全部やりたい……」


 その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「しおりん、いる?」


 扇華の声だった。栞は慌てて扉を開けた。


「扇華! 大変なの!」


 扇華は心配そうに栞を見つめた。


「どうしたの? 何かあった?」


 栞は興奮気味に説明を始めた。


「ねえ、今日ね、待ちに待った新作ゲームが発売されたの。でも、大好きなアニメの新シリーズも配信開始で、しかも『ルナルナ』の新作映画も公開されて……」


 扇華は困惑しながらも、栞の熱意に圧倒されていた。


「それで……どうするの?」


 栞は真剣な顔で答えた。


「全部やる」

「え?」

「全部見る。全部やる。寝ない」


 扇華は心配そうに言った。


「それは無理だよ、しおりん。体を壊しちゃう」

 しかし、栞の目は既に異様な輝きを放っていた。


「大丈夫。これは私の使命なの。運命なの。宿命なの。オタクとしての、ね」


 扇華はため息をつきながらも、栞の熱意に負けた。


「わかったわ。でも、私も付き合うからね。栄養バランスの取れた食事も用意するし、適度に休憩も入れようね」


 栞は感激した様子で扇華を抱きしめた。


「扇華……ありがとう!」


 こうして、栞と扇華の「極限オタクマラソン」が始まった。


 まず、二人は新作ゲームに挑戦した。栞は凄まじい集中力でゲームに没頭し、時折歓喜の声を上げる。扇華は栞の横でサポート役に徹し、適宜水分補給を促した。本当にマラソンっぽい。


「しおりん、ちょっと休憩しない?」

「だめ! ここで休むとフローが途切れちゃう!」


 栞の目はゲーム画面から離れることはなかった。


 数時間後、ようやく一区切りついたところで、二人はアニメの視聴に移った。栞は画面に釘付けになりながら、熱心に作品の解説を始めた。


「ねえ扇華、このシーンの背景に隠れてる小道具、前のシリーズの伏線なんだよ。製作陣の細やかな配慮が……」


 扇華は栞の解説に頷きながら、彼女の豊富な知識に感心していた。


 夕方になり、二人は映画館へ向かった。

 栞は待ちきれない様子で、行列に並びながらも興奮気味に話し続けた。


「この映画のキャラクターデザインを担当しているのは……」


 映画が始まると、栞は息を呑むように画面に集中した。

 感動的なシーンでは目に涙を浮かべ、アクションシーンでは身を乗り出す。

 扇華は、そんな栞の反応を見るのが楽しかった。


 映画が終わり、家に帰る頃には夜も更けていた。

 しかし、栞の興奮は収まる気配がない。


「さあ、ゲームの続きをやるよ!」


 扇華は呆れながらも、栞の情熱に微笑んだ。


「しおりん、もう遅いよ。明日続きをやろう」

「えー、でも……」

「体を壊してもいいの?」

「……そうだね……でも明日は朝から再開だからね!」


 栞は少し考えてから、渋々同意した。

 扇華は安堵の表情を浮かべた。


「わかったわ。じゃあ、今日はここまで。本当に楽しかったね」


 栞は満足げに頷いた。


「うん! 扇華と一緒だったから、10倍楽しかったよ」


 二人は笑顔で見つめ合い、この熱狂の一日を締めくくった。


 栞はベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い返していた。ゲームの興奮、アニメの感動、映画の余韻。そして何より、全てを分かち合ってくれた扇華の存在。


「今日は最高の日だった……」


 そう呟いて、栞は幸せな気分で眠りについた。モウモウは、そんな栞の隣でまるくなり、幸せそうに喉を鳴らしていた。


 翌朝、栞は目覚めるとすぐにゲーム機の電源を入れた。

 そして、扇華からのメッセージを見て微笑んだ。


「今日も付き合うわ。楽しみましょう、しおりん♪」


 栞のオタクライフは、まだまだ続いていく。そして、それを見守る扇華の優しさも、きっとこれからも変わることはないだろう。

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