しおりんの秘密の箱

 ある土曜日の午後、扇華は栞の家を訪れました。

 いつものように部屋に入ろうとすると、栞が慌てて何かを隠す様子が見えました。


「あ、扇華! ちょっと待って!」


 栞の声には少し焦りが混じっていました。

 扇華は不思議に思いながらも、「ごめんね、突然来ちゃって」と笑顔で答えました。


 部屋に入ると、栞の様子がどこかそわそわしているのに気づきました。本棚の隅に小さな箱が見え隠れしています。


「ねえ、しおりん。最近、何か面白いことあった?」


 扇華は何気なく話題を振りました。

 栞は少し考え込むように答えます。


「う~ん、特には……。ああ、この前面白い量子力学の本を読んだよ」


 扇華は栞の話に相づちを打ちながら、さりげなく部屋を見回します。


「へぇ、そうなんだ。その本、どこにあるの?」


 栞は本棚を指さしますが、その手が少し震えているのが分かりました。

 扇華はさらに話を続けます。


「そういえば、しおりん。最近、夜遅くまで起きてるって聞いたんだけど……」


 栞の顔が少し赤くなります。


「あ、それは……ちょっとした実験をしてて……」


 扇華は優しく微笑みます。


「そっか。でも、体調には気をつけてね」


 会話を続けながら、扇華は栞の様子をじっくり観察します。

 時々、栞の視線が本棚の隅の箱に向かうのに気づきました。

 夕方になり、扇華が帰ろうとすると、栞が急に声をかけました。


「あの……扇華。実は、見せたいものがあるんだ」


 栞は恥ずかしそうに本棚から例の箱を取り出します。

 ゆっくりと蓋を開けると……中から懐かしい思い出の品々が姿を現しました。


 まず目に飛び込んできたのは、栞と扇華が幼稚園の頃に撮った写真でした。二人とも大きな麦わら帽子をかぶり、満面の笑みを浮かべています。栞の頬にはアイスクリームの跡が、扇華の前歯は抜けかけていて、幼い二人の無邪気な表情が印象的でした。


 その隣には、小学校の卒業式の日に撮った写真が丁寧に貼り付けられていました。制服姿の二人が肩を組み、少し照れくさそうな表情を浮かべています。写真の隅には「永遠の親友」という文字が栞の几帳面な字で書かれていました。


 箱の中には、二人で初めて行った遊園地のチケットの半券も大切に保管されていました。少し色あせていましたが、日付と「栞と扇華の冒険」という走り書きがはっきりと読み取れます。


 さらに、扇華が栞の誕生日にプレゼントした手作りのお守りも見つかりました。ピンク色の布で作られた小さなお守りには、「栞へ、いつも幸せでありますように」と刺繍が施されています。糸の色は少し褪せていましたが、扇華の温かい気持ちが今も伝わってくるようでした。


 箱の底には、栞が丁寧に書いたノートが置かれていました。表紙には「栞と扇華の冒険日記」と書かれており、中を開くと二人の思い出が日付順に綴られていました。時には栞らしい科学的な観察記録が、時には扇華らしい感傷的な文章が書かれており、二人の個性が垣間見える内容でした。


 これらの品々は、単なる物ではなく、栞と扇華の深い絆と、共に過ごしてきた時間の贈り物のようでした。それぞれの品に込められた思い出が、二人の友情の歴史を静かに物語っていました。


「実は……私たちの思い出の品をコレクションしてたんだ。ちょっと恥ずかしくて……」

 栞は照れくさそうに言いました。

 扇華は感動して、栞をぎゅっと抱きしめました。


「しおりん……私も同じものを持ってるよ」


 二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合いました。

 モウモウも嬉しそうに二人の足元でくるくると回っています。


 結局、栞の「秘密」は、扇華との大切な友情の証だったのです。

 二人はその夜、懐かしい思い出話に花を咲かせ、改めて友情の深さを実感しました。

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