しおりんの秘密のお菓子作り

 穏やかな土曜日の午後、扇華は栞の家を訪れた。いつものように、本やゲームの話で盛り上がろうと思っていた。


「しおりん、こんにちは!」


 扇華が呼びかけると、返事の代わりに甘い香りが漂ってきた。


「あれ?」


 不思議に思った扇華は、キッチンに向かった。

 そこで目にしたのは、エプロンを着けて必死にお菓子作りをしている栞の姿だった。


「あ、扇華……」


 栞は少し慌てた様子で振り返った。


「ごめん、ちょっといま実験中で……」


 扇華は驚きを隠せなかった。


「え? しおりんがお菓子作り?」


 栞は真剣な表情で説明を始めた。


「うん、化学反応の実験をしてるんだ。小麦粉とバターと卵の配合比を変えることで、クッキーの食感がどう変わるか調べてて……」


 しかし、その言葉とは裏腹に、栞の頬は薄く染まり、手元では可愛らしい星型のクッキー型を握りしめていた。


(可愛いー!)


 扇華は心の中で叫んだ。


「へぇ、面白そう」


 扇華は冷静を装いながら言った。


「私も手伝っていい?」

「う、うん……」


 栞は少し照れくさそうに頷いた。

 二人でクッキーを作る中、栞は無意識に様々な女の子らしい仕草を見せた。

 生地をこねる時、栞の表情は柔らかく、普段見せない優しい笑顔を浮かべていた。



(うわぁ、しおりんの笑顔、天使……)


 クッキーの型抜きをする時、栞は真剣な顔で舌を少し出していた。


(きゃー! 集中してる顔がたまらない!)


 オーブンからクッキーを取り出す時、栞は「あつあつ♪」と小さく歌うように言った。


(しおりんが歌ってる……あたし、もう、死ぬかも……)


 完成したクッキーを見て、栞は無邪気に「やった!」と小さくガッツポーズをした。


(もう、反則級の可愛さ……)


 扇華はこれらの瞬間瞬間に、心の中で悶え続けていた。

 最後に、二人でクッキーを食べながら、栞が言った。


「ね、扇華。この実験結果をまとめたレポート、後で見せるね」


 扇華は優しく微笑んだ。


「うん、楽しみにしてるよ」


(しおりんらしいな……でも、今日見られた素直な一面、私だけの宝物だな)


 そう思いながら、扇華は幸せそうに栞の手作りクッキーを頬張った。


「「あつあつ♪」」


 二人は同時に思わずそう言って微笑んだ。

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