しおりんのぬいぐるみ劇場
梅雨の季節、外は霧雨が降り続いていた。
栞は部屋の中で退屈を持て余していた。
「はぁ……何して過ごそう」
ふと目に入ったのは、棚に並んだぬいぐるみたち。
栞は思いつくように立ち上がり、ぬいぐるみを集め始めた。
「よーし、みんな。今日は特別な日よ」
栞は部屋の真ん中にぬいぐるみを並べ、即興で物語を作り始めた。
「昔々あるところに、勇敢なウサギのぴょんたろう(白いウサギのぬいぐるみを持ち上げる)がいました」
栞は声色を変えながら、それぞれのぬいぐるみに個性的な役割を与えていく。
クマのぬいぐるみは賢者に、キリンは高い塔の番人に、カバは川の渡し守になった。
「そして、ぴょんたろうは仲間たちと一緒に、伝説の人参を探す旅に出かけました」
物語が進むにつれ、モウモウが興味を示し始めた。
栞の周りをうろうろしながら、時折ぬいぐるみに前足を伸ばす。
「あら、モウモウも参加したい?」
栞はモウモウを「魔法使いの使い魔」として物語に組み込んだ。
モウモウは満足げに喉を鳴らし、栞の膝の上で丸くなった。
物語が佳境に入ったころ、扇華が訪ねてきた。
「しおりん、いる? ……あら、何してるの?」
栞は少し恥ずかしそうに笑った。
「ちょっとした即興劇」
扇華は目を輝かせた。
「面白そう! 私も見ていい?」
「うん、どうぞ」
扇華も床に座り、栞の物語に耳を傾けた。時折、アイデアを出したり、効果音を担当したりしながら、二人でぬいぐるみ劇場を楽しんだ。
栞は白いおもむろにウサギのぬいぐるみを両手で持ち上げ、声を変えて話し始めた。
「ぼくはぴょんたろう! 勇敢なウサギの騎士さ。今日も冒険に出発するぞ!」
栞はぴょんぴょんとウサギを跳ねさせながら、部屋の中を動き回る。次に、彼女はクマのぬいぐるみを手に取った。
「ふむむ……」
低い声で賢者のクマを演じる。
「若きウサギよ、君の旅路には多くの試練が待ち受けておる」
栞は真剣な表情で、まるで本当に別の人格になったかのように、それぞれのぬいぐるみの役を演じ分けていく。
彼女の目は輝き、頬は紅潮して少し赤くなっていた。
キリンのぬいぐるみを持ち上げると、今度は少し気取った声で話す。
「ようこそ、聖なる高い塔へ。ここからは遠くの景色が一望できますよ」
カバのぬいぐるみを手に取ると、どっしりとした声で語り始めた。
「川を渡りたいのかい? でも、その前に謎を解かなきゃダメだよ」
扇華はそんな栞の姿を見つめながら、優しい笑みを浮かべていた。「しおりん、可愛いなぁ~」と小さくつぶやく。栞の熱中している様子、真剣に演じる姿に、扇華は心を奪われていた。
栞が一生懸命にぬいぐるみたちを操り、物語を紡いでいく。その姿は、普段のクールな天才少女とは違う、子供のような無邪気さに満ちていた。扇華は、そんな栞の新しい一面を見られることに幸せを感じていた。
「しおりん、本当に楽しそう」
扇華は心の中で思った。
「こんな風に夢中になって遊ぶ姿、滅多に見られないよね。しおりん、純粋だなあ~」
栞の演技が続く中、扇華は静かに見守り続けた。時折、適切なタイミングで相づちを打ったり、驚いたような反応をしたりしながら、栞の物語の世界に寄り添っていった。
夕方になり、物語が結末を迎えると、扇華は拍手した。
「素敵な物語だったよ、しおりん。また聞かせてね」
栞は照れくさそうに頷いた。雨の日の退屈が、想像力豊かな冒険の日に変わっていた。
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