第36話 ユイドラの装備を注文しよう
「それではっ! まず、お二人の装備デザインを決めるッスが……どちらからにするッス?」
キラキラと目を輝かせたラムリザが、ゼファーとユイドラにそう尋ねた。
短すぎる納期のことは一旦忘れて、装備制作を楽しむつもりらしい。
チラリとユイドラを横目に見ながら、ゼファーが張り切って答える。
「そりゃあ、もちろん――ユイドラだろ!」
「ん……私が先でいいのか?」
「俺、自分のヤツよりユイドラのが興味あんだよ。だから、ユイドラが先」
「そうか。では謹んで、先陣を務めさせていただくとするよ」
こうして先行がユイドラと決まったので、早速ラムリザは執務室左にある本棚からスプラックブックを持ってくる。
「ウチが厳選した
そう言って、ユイドラに手渡したのは分厚い革張りの表紙で高級感のある本。
中をペラペラとめくると雑誌の切り抜きや絵、カードの類い――カッコイイ装備を身にまとった冒険者の姿が絵柄になっているもの――までをこれでもかと集めたスクラップ集になっていた。
またそれらの余白を埋めるように、ラムリザによる一言メモやアイディアが添えられており、これだけで彼女の仕事への姿勢と有能さがわかる、そんな本に仕上がっていた。
「どれどれ……これは露出が大胆すぎるな。こっち……もほぼ水着と変わらない露出度だぞ。っておい、これなんて遠目から見たらほぼ裸同然じゃないかっ……」
「どうッス? なにか気に入ったの見つかったッスか?」
本を持つユイドラの手はプルプルと震えていた。
その震えは羞恥か、もしくは怒りか。
「どれもこれも……スケベ丸出しじゃないかッ」
そう言って、高そうな本を激しく地面に投げ捨てた。
果たして、ユイドラが激高するほどのデザインとは一体どのようなものなのか。
ゼファーが本を拾い上げて、ペラペラとページをめくる。
その脇からララノアもこっそりと覗き見ていた。
「ほうほう、なるほど……」
「あらあら、まあまあ……」
本の中身は水着同然の際どい踊り子衣装一色であった。
それらはフリフリの踊り子衣装とビキニアーマーを融合させたものばかり。胸や腋が露出するのは当然として、酷いものだとローライズパンツで
ちなみに言うと、現在の女性冒険者の装備トレンドはビキニアーマーであるため、それの影響もあるのだろう。
とにかく、その全てに共通するのはかなり煽情的で露出度が高いデザインであること。
一応、肌を覆う目的のマントみたいな羽織がついてたりするが、全てシースルー。徹底して女性の肉体美を見せつける設計思想が垣間見えていた。
怒りで震えるユイドラに、ラムリザが申し訳程度の言い訳をする。
「やっぱそうなるッスよねぇ……実は、今の流行りは露出多めで肌を晒すデザインが大人気なんスよ。しかも、後衛職だけじゃなくて前衛職でもビキニアーマーなんてものが流行る始末でっして。どれもこれも貴族受けがいいと噂が広まったッスから、みんな真似し始めちゃったんス……」
「はぁ……死んでしまっては元も子もないだろうに、最近の冒険者はみな愚か者なのか? 全く、嘆かわしいものだな」
その言い方めっちゃ小言を言うおばあちゃんっぽいな、なんて思うゼファーであったが、それは口に出さずに気になったことを尋ねる。
「実際のところ、防御を捨てて問題ないのか?」
「それがッスねぇ……上級ポーションが安価になったこと、中級以下のポーションの効果が上昇したこと。そして、付近の魔物を探知できる魔道具マモタンの普及によって意外と悪くないどころか、むしろ効率的なんじゃないかって研究してるパーティーまでいるくらいなんッスよ!」
「なに、マモタンって?」
「何でも、魔物が体内に持つ魔石を感知して、魔物の接近を知らせるというシンプルな仕組みの魔道具なんスけど、これのおかげで奇襲による致命傷の件数が激減したらしいッス。そんでまたこれがそこそこ安価で効果的なもんだから大ヒットしたんスよ」
そう言って、本棚脇にある黒い球体を指さす。
「そこにあるのがそうッス」
「結構デカいのな」
「大きさは人の頭部くらいッスかね? 重さは結構軽いッス。ちなみに、
「でも、奇襲つっても面と向かって戦うのは変わんねー訳だから、防御捨てたリスクはやっぱデカいんじゃねーの?」
「そッスねぇ……ここからは少し専門的な話になるんスけど、防御性能を上げるために露出を減らすと、体にこもる熱の処理が困難になるッス。そうなると熱で動けなくなるッスから、最近のトレンドはある程度露出を増やすことで排熱しやすくして、継続戦闘能力を高める傾向にあるんスよ。仮に怪我をしても、安価で効果的なポーションで済むようになったからこそ、選べる戦術ってヤツッスねぇ」
ここでララノアがラムリザの説明を補足する。
「ちゃんと熱を発散させる魔法はあるんですのよ? だけれど、
「
ユイドラは露出が少ない別のデザインを出せと、ラムリザに要求していた。
すいませんでしたッスと頭を下げるラムリザは、製図机に置いてある一枚のデザイン用紙を手に取る。
ユイドラに背を向けた瞬間のラムリザの顔は、ニヤリと悪だくみをするように口角が上がっていた。
最初に見せた案は所詮、捨て案。通らないことはラムリザ自身、百も承知であった。
本命は今から見せる一枚のデザイン用紙。
これはそう、先にヤバそうな案を見せた後に、満を持してもっともらしい案を出すという高等テクニックだったのだ。
「スゥ……これなら、どうッスかね? 露出は控え目でかつ防御性能は最高水準。間違いなくユイドラ殿のお眼鏡にかなうデザインだと思うッスよ!」
白々しい顔でラムリザが提出したデザインは、踊り子衣装とレオタードが融合したものであった。
露出は肩、わき腹、鼠径部の端と必要最低限。踊り子衣装は胸布と腰布が幅広で申し分ない。レオタードも急所が集まる胴体中心をしっかりと覆って安心感もある。
さらに、胸や腰などの重要な部位には一部ではあるが、金属製の防具で確実にカバー。切り傷対策に手袋やソックス付きで、おまけにマントまであるおかげで、露出対策もバッチリ。
ユイドラが好印象を持つこと間違いなしの装備デザインであった。
「ん……悪くない」
「そうッスよねぇ! そうッスよねぇ! 実はこのレオタードは特別製でっして、その実物が隣のアトリエにあるんスよ!」
そう言って、ラムリザは執務室右のアトリエに案内する。
そこには人の胴体を模したトルソーがいくつも置いてあり、その中の一体だけレオタードが着せられていた。
ユイドラがそれに近づくと、布地を引っ張って表と裏の質感を指で確かめる。
「やたらとペラペラしているな……って、おいっ」
「どうしたッスか?」
とぼけた顔でそう答えるラムリザに対して、ユイドラが額に青筋を浮かせながら怒る。
「スケスケじゃないかッ」
「ち、違うッス! 肌に密着すれば透けないんスよ! だから、手を離すッス!!」
「何?」
言われた通りに布地から手を離すと、確かに透け感はなくなっていた。
「ん……確かに透けなくなった。だが、引っ張るとスケスケになるのは欠陥じゃないのか?」
「そ、そもそも、布地を強く引っ張ればスケスケ云々関係なく、横から丸見えッスよお!!」
ラムリザの指摘は至極正論だったため、ユイドラはぐうの音すら出ずに黙ってしまう。
「あのッスねぇ、ユイドラ殿……無理やりいちゃもんをつけるのは止めて欲しいッス!」
「そ、そういうつもりでは……」
「流石にスケベに敏感過ぎッスよ……あ、はっはぁ~ん? なるほど、エッチなのが気になるお年頃ッスかぁ? ませてるッスねぇ……このこのっ」
そう言って、肘でユイドラをおちょくるラムリザ。
気になるユイドラの反応はというと――無、であった。
全くの無反応に無表情。虚無の申し子と化していた。
次の瞬間、室内を凍てついた沈黙が支配する。
キーンと空気が凍結し、ユイドラの周辺温度が急降下。無自覚なラムリザによってユイドラの地雷が踏みぬかれてしまった。
思春期などとうの昔に過ぎたユイドラにとって、その言葉は禁句であった。
「ぷひゃぁ~ひゃっひゃっひゃっ! エッチなのが気になるお年頃って、これでも百十三歳な――」
ユイドラを笑うためだけに出現したフリーゼを、ユイドラの右手が刈り取る。
「――んほげぇっ」
虚無顔のユイドラがラムリザに言う。
「このレオタードは特別製と言っていたな。それについて説明してくれ」
どうやら、今までのやり取りを完全になかったことにして、話を先に進めるつもりらしい。
「ははは、はいッス!!」
さささっと機敏に、トルソーに着せられたレオタードの背後に立つと、概要を簡単に説明する。
「こ、こここれは柔らかい
「それだけか?」
「つ、つつ通常時でも、優れた耐靭性、耐物理、耐魔法を備えた強固な防御性能もあるッス! あと、値段がめちゃヤバッス! レオタードだけで、十五億ゴールドッス!」
「なるほどな。では、試してみても?」
「も、もももちろんッス!」
そう言って、ラムリザはレオタード背面の腰部分に手を添える。
ちょうど背骨があるライン上、腰の中心辺りに円形金属板があり、こぶし大の魔水晶がはまっていた。
恐らくはその物体がレオタードの本体であり、魔術回路的なギミックが組み込まれているのだろう。
「いつでも行けるッスよ!」
ここで、ユイドラはアトリエの端にある机にふと目を落とす。
そこにはいくつもの速攻魔法発動用の短杖が並べてあった。
「短杖の性能も確かめていいか?」
「ど、どどどうぞッス!」
短杖は精霊魔法使いや
サブウェポンとして使う場合は、主に近中距離想定の即応魔法陣を刻み、マナを込めるだけで即座に魔法が発動する即応武器として活用する。ただ、精霊魔法使いが使う杖に限っては、魔法陣は刻まれていない。
またその性質上、威力や規模は劣化するものの、極めて便利かつ汎用性に優れるため、愛用者はかなり多い。
便利アイテムとして使う場合は、水を生成する魔法陣で飲料水を確保したり、岩を生成する魔法陣で足場や拠点を作ったり、浄化の魔法陣で衛生環境を整えたりと多岐にわたる。
こちらは日常生活においても便利なため、冒険者以外にも愛用者は多い。
そんな短杖をユイドラは一本一本手に取って、杖先端の魔水晶を覗き込む。
どうも、製作した工房の銘を確かめているようであった。
「ニヴセヴ、レセニ、ゼヴォ……あったあった、リネッラ。これが一番好きなんだ」
そう言いつつ、手には三本の短杖。どれも別々の工房製だった。
「では、行くぞ?」
「どんとこいッス――」
「――アイシクル・エッジ」
ユイドラが魔法を発動したその直後、短杖を握る右手の先に薄水色の魔法陣が出現。
そこから一本の氷剣が顔を出し、魔法陣に波紋が広がる。
氷剣の切っ先が狙うのは、ラムリザが手で押さえるレオタード。
その背後で冷や汗を垂らしたラムリザが、青白い顔で震えていた。
「わッ……わッ……わぁ~っ!」
「穿て、氷剣よ」
ユイドラの合図と共に、氷剣が射出された。
「わぁァアアアーーーッ!??」
ラムリザは悲鳴を上げながらも、衝撃に備えてグッと踏ん張っていた。
一本目の氷剣がレオタードに着弾。パキーンという高音を響かせて氷が砕けるが、レオタードは無傷であった。
ユイドラはすぐさま別の短杖に持ち替え、魔法を発動する。
「アイシクル・エッジ」
「うわぁァアアアーーーッ!??」
再び、衝撃に備えてグッと踏ん張るラムリザ。
二本目の氷剣が着弾するも、また無傷。
さらに別の短杖に持ち替え、魔法を再発動する。
「アイシクル・エッジ」
「ぎゃわぁァアアアーーーッ!??」
今回は衝撃に備える前に、三本目の氷剣が着弾。
ラムリザはトルソーを抱きかかえた状態で、背後に吹き飛ばされてしまう。
だが、レオタードはそれでも無傷であった。
「ん……やはり短杖はリネッラだな。魔法の発動が一番早い」
そう言って、ユイドラはトルソーを抱きかかえた状態のラムリザを引き起こす。
「流石に衝撃までは殺せなかったか。だが、無傷とは……素晴らしい」
「そ、そッスよねぇ……」
これほどまでに強固な性能を誇るレオタードは、ある競技のために開発された技術である。
それはエアブルームレースと呼ばれる速さを競う競技のこと。
空を飛べるように箒を魔導化し、街の中に設定したコースを飛んで速さを競うレースである。
その歴史は古く、三百年以上も前に六商同盟【ユリステリア】のテリシアにて誕生。今では世界中で盛んに行われるほどの大人気レース競技へと発展した。
何故、そこまでの人気を誇るようになったのか。
一つは大金が絡むギャンブルがもたらす快感と刺激。開催されれば、合法非合法問わず賭博会場が開かれ、表と裏の両方で巨万の富が動くとも言われている。
もう一つはスリルと迫力、アクシデント多発からの先の読めない展開。街の中を高速で駆け抜けるため、それ相応の危険を伴い、パイロットと観客の双方で命を落とす者が出ることも少なくない。
それこそ、大昔は一開催で百人前後の死者が出ることは当たり前。死が身近にあるからこそ、観客は熱狂し、魅了されるのだ。
しかし、死者が出ること自体はあまり望ましくはない。
そのため最近になり、競技ルールの改善や観客側の観戦ルールなどの健全化が図られた。
競技ルールの改善点は直接攻撃や妨害行為の禁止。
これは競技内容が迷走しかけているのを軌道修正するためで、これを機にレースの目的をエアブルームの性能を求めることと定めた。
観戦ルールの健全化は事故多発ゾーンへの進入禁止。
アクシデントを見たいがために観客が集い、巻き込まれる負の連鎖を防ぐことが目的である。
また同時平行で、パイロットの生命保護を目的とした技術開発も行われた。
それが柔らかい
ここにあるのはお金の関係でレオタードタイプだが、本来は全身を覆うパイロットスーツとして作られることが多い。
ギミックも微妙に違っていて、レオタードタイプは超硬質化だが、パイロットスーツの方は風船のように膨らんでパイロットを保護するギミックとなっている。
ちなみに、パイロットスーツ一着でなんと百五十億ゴールド。金等級冒険者でも中々手を出せない金額である。
さらに言えば、エアブルーム本体の金額はその十倍以上。
そんなロマンの塊がアクシデントで壊れれば、そりゃ盛り上がるのは当然と言うものだ。
とにかく、ユイドラが着る予定のレオタードとはこのような経緯で生まれた、最先端の魔導技術の結晶なのであった。
「いつまでトルソーを抱きかかえているんだ」
腕を組んだユイドラが、ヒシっとトルソーを抱きしめ涙目なラムリザにそう言った。
「だ、だだだって、怖かったッスもん……」
「そうか。次で最後だから頑張れ」
「ひぃ~! 人使いが荒いッスよお!!」
防具としてまとう衣装、速攻魔法発動用の短杖ときたら、残るのは精霊球だけ。
「フリーゼ推参! 精霊球選びは精霊がいなかったら話にならないよね~!」
ユイドラに呼ばれてもいないのに、フリーゼが勝手に現れていた。
そもそも、精霊魔法使いが使う武器、精霊球とは精霊の家みたいなものである。
その主な効果は三つ。
一つ目は精霊への魔力伝達時における魔力ロスの解消。これにより、魔法に使う消費魔力が半減する。
二つ目は魔力への味付け。精霊にとって魔力は食べ物なため、美味しい方がいっぱい食べられる。つまり、大魔法が行使できるようになるのだ。
三つ目は使用者の余剰魔力の貯蓄。平常時などに無駄に垂れ流されるマナを魔力に変換し、魔力として貯蓄する。それは精霊が物質世界に顕現したり、存在し続けるために消費したりする。
「それ~!」
そう言って、フリーゼが机に並べられた精霊球に飛び込んでいた。
「ん~コレはだめ~、コッチも微妙~、コレは好みじゃな~い!」
フリーゼはてきぱきと精霊球を内見し、即座に評価を下していく。
そんな大精霊フリーゼを見て、訝しげな顔をしたララノアが疑問を口にする。
「あらあら~? やっぱり、大精霊ですわね~? ん~?」
「どうした? 何か気になることがあるのか?」
「実は、私も大精霊様と契約しているのですけれど……」
そう言って、ポンと何もないところから樹で出来た杖を取り出す。
次の瞬間、杖の先っぽの魔水晶から緑色の大精霊が出現した。
「この子は風の大精霊シルフルちゃん……って、あら?」
人の頭部くらいのサイズなシルフルは、なんとララノアの谷間にズボッと頭から突っ込んでしまった。頭を隠して尻隠さずの状態である。
「もう、どうしちゃったんですの?」
「風の大精霊シルフルだったか、恥ずかしがり屋さんなのか?」
「ん~、そんなことはないと思いますけれど……初対面の精霊には人見知りするのかもしれませんわね~」
それから、ララノアが改めて先ほど抱いた疑問について話す。
「実はですね? この子、シルフルちゃんから聞いた話では火、風、水、土の四属性しか大精霊はいないと聞いていたんですの。でも、目の前には確かに氷の大精霊様がいらっしゃるから、不思議でして……」
ララノアの疑問に対して、ユイドラが持論を述べる。
「大昔、今は滅んでしまった古代ダークエルフたちの国では、光や闇、雷や氷など色々な大精霊がいたという伝説が残っている。だから、氷の大精霊がいたとしても不思議ではないんじゃないか?」
「……氷の大精霊様と出会った場所を聞いてもよろしくて?」
「常闇の亡都ベルフェインとだけ。これ以上は言えない」
「そう……」
ユイドラの話を聞いたララノアは酷く険しい顔をしていた。
何やら、思い当たる節でもあったのだろうか。思いがけず悪い報せを聞いてしまった、という雰囲気を漂わせていた。
「これこれこれー! フリーゼ、これがいい!」
しかし、不穏になりかけた雰囲気はフリーゼの無邪気な声で霧散した。
フリーゼはとある精霊球の中でくつろいでいた。
その形状はまるで地球儀のよう。人の頭部より大きい魔水晶を中心に、金属の輪っかがクルクルと回っていた。
ラムリザがフリーゼが入る精霊球の前に立ち、工房を確かめる。
「この精霊球を作ったのは……ラ・フェッリ、ッスか。いやぁ~流石、大精霊様。お目が高いッスね~」
「まあね~!」
「ちなみに決め手は何だったッスか?」
「ん~、世界観かな?」
「なるほどッス~」
意識高めによくわからないことを言うフリーゼに、よくわからない顔でラムリザが返事をごまかしていた。
こうして、ユイドラに関する装備の大枠が決まり、次々と配色決め、素材選び、外注パーツをどこの工房に依頼するかなど話が進んでいく。
そしてようやく、羽ペンを握るラムリザがあらかたの決め事を書類に書き込み終える。
「では、ユイドラ殿の装備はこんな感じでいいッスね」
「あぁ、頼む」
そう言って、満足げな顔でユイドラが返事を返した。
ラムリザの顔には心地よい疲労感が浮かんでいた。
ひと段落したことで、ほっと一息つきながら心の中でこう思う。
(よかったッス。アレはギリバレなかったッスね……)
ラムリザが言うアレとは特別製のレオタードに関すること。
実のところ、なんとレオタードの背面はほぼ紐しかないという有り様であった。
これは一週間という短い納期のせいで、大幅な手直しがきかないため、もうあのまま着てもらうしかないのである。
(まあ、マントがあるッスから、大丈夫ッスよね?)
ユイドラが終われば次はゼファーだ。
待ってましたと言わんばかりに、ゼファーが言う。
「じゃあ、次はいよいよ……俺の番ってことだなあ!」
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