第30話 ユイドラVSロイヤルガーデン1
「お待たせして申し訳ありませんわ。そちらの準備はもうよろしくて?」
リーデガルトが率いるパーティー、ロイヤルガーデンの四人が完全装備で勢ぞろいしていた。
パーティーの
最前列に剣と盾を装備した
「あぁ、問題ない。それと言い忘れていた勝利条件だが――」
「――参った! と相手に宣言させた方の勝ち、でいいんじゃないかしら?」
リーデガルトの提案はシンプルでわかりやすいものだが、それゆえに抜け道が隠されていそうな内容であった。
当然、ユイドラはそれを警戒して詳しく詰める。
「戦闘不能になった場合はどうするんだ?」
「その場合は各種ポーションで回復した後、決闘を続行します。またポーションが無くならない限り、何回でも回復は可能ですわ」
「ん……それでは終わりがこない場合も発生すると思うが?」
ユイドラはそちらが意固地になって参ったを言わなければ、敗北がないのと同じだろうという意味でそう言った。
「あらぁ~? この決闘は正式にはマインドバーサスと言いまして、我が聖王国が誇る
「無知ですまない。初耳だ」
「でしたら、ご説明して差し上げますわ。この決闘で証明するのは戦いの技術ではなく、心の強さ。どちらが先に相手の心を折るのか、というのが肝なんですの」
「一つ、質問がある」
「どうぞ」
「どちらも降参せず、戦いがエスカレートしすぎた場合……仮にポーションで治しきれない傷を負ったり、もしくは最悪死んだ時はどうなる?」
「その場合は死傷させた方が失格となりますが……万が一、貴族の娘を傷ものにしてしまったり、死なせてしまった時は――分かっていますわよねぇ?」
その一言でユイドラは確信する。この決闘があまりにも不利過ぎることに。
いや、もっと言ってしまえばユイドラに勝ち筋がないにも等しく、馬鹿正直に戦ってもただ敗北するだけだ。となると、ここでの正しい選択は戦わないこと。
しかし、ユイドラはあえて戦うことを選択する。
「安心しろ、むしろ無傷で返してやる。だから、遠慮なく全力でかかってくるがいい」
なんと逆に勝つ気満々で、そう言い返していた。
「そッ!? そうですか……あとで後悔しても知りませんことよ?」
「私の心配は無用だ。むしろ、仲間の心配をしていたほうがいいんじゃないか?」
「フンッ……余計なお世話ですわ! そちらこそ、その虚勢がいつまで続くのかしらね? あとで吠え面を拝むのが楽しみで仕方ないですわぁっ……ホホホッ」
そう虚勢を張りつつ、リーデガルトは得体のしれない不安を感じていた。
明らかにユイドラに不利な勝負内容なのに、そのユイドラは微塵も己の勝利を疑っていなかったのだ。
リーデガルトは心の中で、
(あなたに勝ち筋なんてないはずなのに……何なのあの自信? 意味が分からないわ。まさかわたくしが編み出した必勝不敗の戦術に、負け筋なんてあるはずが……)
と色々と頭脳を働かせるが、ユイドラの勝ち筋がなんなのか一切掴めずにいた。
こうして、決闘前の舌戦はわずかにユイドラに軍配が上がった。
とは言え、最後に勝たなければ意味はないが。
一旦、リーデガルトは考えることを止め、過去の記憶を思い出す。
(きっと杞憂ですわね。あれは所詮虚勢に決まってます。わたくしは今まで、数多の女冒険者をわからせてきたんですのよ? 今回だってわからせて差し上げますわ――全裸にひん剥いた上でたっぷりと……ねぇ)
自信を取り戻したリーデガルトは、一番重要な勝者が得る権利について話す。
「あぁ、そうそう。一番大事なことを忘れていましたわ。勝者は勇者ゼファーに仲間にしたい冒険者として推薦していただく権利を得る、ということでよろしいですわよね?」
ユイドラは少し考えてから答えを返す。
「……あぁ、異論ない」
「まあ、話が早くて助かりますわ」
リーデガルトはその一言を聞いて安心していた。
これでユイドラたちが後で約束事をひっくり返すようなことはなくなったと。
それから、満面の笑みで手をパンと叩いて言う。
「では立会人の方に来ていただきましょうか。お願いしますわ、ラングレン様ー!!」
呼ばれてやってきたのは黄金の全身鎧に身を包んだ男。
彼の名はラングレン・ザラー。
「何アレー! ちょーカッコいいんですけどォ~!!」
全身甲冑に目がないイルヴィが大興奮していた。
「双方、前に」
ロイヤルガーデンのリーダー、リーデガルトと金等級冒険者のユイドラが向かい合う。
「決闘者はリーデガルト・エル・マグ・バニングス率いるロイヤルガーデンと金等級冒険者ユイドラ・ディジーヴル。決闘方式は四対一のマインドバーサス。勝者が得るのは、仲間にする冒険者として勇者ゼファーに推薦してもらう権利。勝敗は参ったと宣言させることで決するものとする。異議はないな?」
リーデガルトとユイドラの両名は黙って頷いていた。
「リーデガルト・エル・マグ・バニングス、君は心折れぬ限り戦い続けると誓うか?」
「はい、誓いますわ」
続けて、ユイドラにも確認する。
「ユイドラ・ディジーヴル、君は心折れぬ限り戦い続けると誓うか?」
「あぁ、誓うと約束する」
ラングレンは周囲の観客である貴族たちに向けて、力強く宣言する。
「ではこれより双方合意のもと、決闘を執り行う! 立会人は
ロイヤルガーデンとユイドラが距離を取って立ち位置につく。
その距離、およそ20m。詠唱が必要な
ユイドラがフリーゼに作戦を伝える。
「短期決戦はなしだ。極力、マナを節約しつつ遅滞戦術を用いて時間を稼ぐ。長期戦になるが、行けるな?」
「うわぁ~しんどそう……ってか、精霊球なしだからマナ消費は倍だよね? ホントに長期戦で大丈夫?」
「フンッ……心の強さとやらでどうにかするさ」
ラングレンは一度深呼吸すると、ゆっくりと口を開く。
「勝敗を決するのは生まれ持った才能か? それとも、鍛錬で身につけた技術か? いいや、違う! 心の強さが決めるのだッ――マインドバーサス!!!」
試合開始の合図と共に、即座に動いたのはロイヤルガーデンの
「詠唱なんてさせません!」
肉薄する敵に対して、ユイドラは至って冷静だった。
「馳せ参じよ――ホワイトナイト」
なんと長い詠唱をほぼ破棄し、速攻で魔法を発動していた。
地面からパキパキパキと音を立てて、氷の棺桶が出現。内側から爆ぜるように砕け散ると、氷でできた白騎士が重騎士に斬りかかる。
「嘘ッ……長い詠唱が必要なんじゃないの!?」
白騎士が重騎士を足止めしたことで、ユイドラは防御を気にすることなく、ロイヤルガーデンの後衛に目を向ける。
「詠唱が
「ってか、何あの魔法!? 完全初見なんですけど!??」
ロイヤルガーデンの
「フリージングスピアー」
なんとユイドラは今度こそ、完全な詠唱破棄で魔法を発動していた。
ユイドラの周囲に出現したのは氷の蜂。数は二匹と少ないが、ブンブンと嫌な音を振りまいていた。
「簡単そうに詠唱破棄しやがって……」
「それだけじゃない、魔法の発動と展開まで早すぎるッ……」
リーデガルトが働かない上級魔術師に喝を入れる。
「口じゃなくて手を動かしなさい! フレイムランス用意!」
「「は、はい!」」
二人の上級魔術師が杖にマナを込めようとした時だった。
「ギャッ」
「イギッ」
高速で接近した氷の蜂が上級魔術師の腕を刺し貫く。
その瞬間、腕が凍結。酷く痛むのかうずかってしまう始末であった。
「二人とも痛がってる場合じゃありませんことよ! 早く魔法を撃ちなさいな!」
「そ、それが……杖にマナが注げないのです」
「きっと腕が凍ってるせいです!」
なんと腕が凍りついたことで、マナの注入が強制中断されてしまっていたようだ。
何もできずに慌てふためく後衛に対して、重騎士は何の援護も無しにたった一人で白騎士と戦っていた。
「くッ……少しくらい攻撃して来なさいよ、隙が無さ過ぎるじゃない! それに何よ、この硬さ!? あぁ、もうバカげてるわ!」
重騎士の踏み込みと同時に走る縦一閃は、白騎士の盾で逸らされ難なく防御されてしまう。
それどころか、逸らされた際に体勢を崩されたところを狙って体当たり。ユイドラに近づきたいのに遠ざけられてしまった。
こうして、場は完全に膠着状態となった。もはや戦場はユイドラのもの。思うがままに全てを支配していた。
元々、ロイヤルガーデン側の作戦は重騎士が間合いを詰め、魔法の詠唱を妨害。
その間に、二人の上級魔術師が魔法を連発して防戦一方にさせ、防御が崩れたところをリーデガルトの鞭でダメージを与えるというものだった。
しかし、その作戦は完全に破綻。作戦の変更を余儀なくされてしまった。
リーデガルトは一体この状況をどう打開するのか。
「はぁ……こうなったら仕方ありませんわね」
そう言って、なんと二人の上級魔術師の頭部を鞭で打ち、戦闘不能にしてしまう。
「立会人! 戦闘不能につき、ポーションの使用を願いますわ!」
「……許可する」
リーデガルトに対して、
リーデガルトのあまりの所業に、ユイドラが思わず言葉を漏らす。
「人でなしめ……」
己の所業に何の疑問も抱かないリーデガルトは、受け取った二本の回復ポーションを二人の上級魔術師に頭からぶっかける。
「さあ、これで腕の凍結は治りましたわね? 怠けてないで、さっさと立つのよ」
リーデガルトに急かされて立った二人はユイドラに向けて杖を構える。
その腕はわずかに震えていた。
魔法を撃たれては困るため、再び氷の蜂が二人の上級魔術師に向かうが――なんとリーデガルトの鞭により、粉々に打ち砕かれてしまった。
「「フレイムランス!」」
ついに、ごうごうと燃え盛る二本の炎槍が放たれた。
「フリーゼ」
「よゆーよゆー!」
しかし、一切慌てる様子などないユイドラとフリーゼ。
次の瞬間、二本の炎槍は空中に浮かんだ氷の障壁によって、あっけなく阻止された。
「ははっ……今度は魔法名の発声すらなしか」
「今のは多分、氷の大精霊によるものでしょうね……」
「ダラダラくっちゃべってる暇があったら、魔法を撃ちなさい! こっちには無限に回復ポーションがあるのだから、撃ち続けてればいずれ相手のマナは尽きるわ」
そう言われても、一抹の不安は拭えないのか、上級魔術師がリーデガルトに尋ねる。
「で、ですが……もし、マナが尽きなかった場合は――」
「――忘れましたの? あの女が着ているドレスは特別製ですのよ?」
「あっでは……」
「えぇ……必ずや、余裕を失って取り乱す瞬間が来ますわ。つまり、機が熟すまで絶え間なく炎の魔法を浴びせ続け、この空間を熱で火あぶりにかける――それがわたくしたちの勝ち筋なのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます