第24話 ユイドラ・ディジーヴル

 白神官に治療区画から追い出された後、俺たちはひと気が少ない場所に移動していた。


「さて、私の麗しきダークエルフちゃん。私の名はライザ――」


 空気を読めない美少女バカに対して、セラを中心にガルカとイルヴィが強引に引き離す。


「ごめんなさいッごめんなさいッごめんなさいッ! このおバカはこっちで回収しますから、気にしないでくださいね~」

「この悪しき美少女イーターは僕らが抑えておくから、頑張ってゼファー!」

「このヘンタイはあーしがきっちりオシオキっておくから、ごゆっくりドーゾー」


 こうして、この場に残されたのは俺とダークエルフのお姉さんだけ。

 つまりは、二人っきり。


 なんと絶好のパーティー勧誘チャンスが到来していた。


(よ、よし! ここは男らしくバシッと決めなきゃいけねーシーンだぞ、俺!)


 しかしまあ、いきなりぶっこむのはあれだもんな。まずはジャブから探り探りいくとしよう、と思ったところであることに気づく。


(お姉さんって、意外と身長たけーな)


 それなりの角度で見上げないと顔が見えないということは、結構な身長差が存在するということ。

 早く成長期が来て欲しいものだと思いながら、俺はお姉さんに尋ねる。


「あ、あの……さ? お姉さんは冒険者……だよな?」

「ん……あぁ、そうか」


 お姉さんは自分の服装を見て、俺がした質問の意図を察する。


「これでは冒険者には見えないか。装備は失ってしまったんだ。度重なる不幸に見舞われて、な……」


 そう伏し目がちに話しながら、自らの体を慰めるように両腕で抱きしめる。

 ちょうど、肘の辺りを支えるように掴んでいるせいで、たわわな爆乳が強調されてしまっていた。


(――!?)


 俺はついうっかり胸を見てしまわないよう、お姉さんから視線を外す。

 すぐさま理性を総動員し、少しでもエッチな邪念を紛らわせるために、装備を失ってしまった事情について想像する。


 たった一人で金仮面デウラトゥスに捕まっていたという状況から推測するに、仲間に裏切られたとか、囮にされたとか、見捨てられたとかだろう。俺も似たような目にあったんだ。このシャリオンは人が多い分、治安が悪いらしいからな。きっとそうに違いない。


(俺のお姉さんを危険な目に合わせたヤツ……絶対許さねえ!)


 なんて憤怒しつつ、冒険者かどうか確認するなら冒険者ギルドカードを見せてもらえばいいことに気づく。


 しかし、まあいいかと楽観的に却下する。


 だって疑っているみたいに思われそうだし、何よりこんなキレーなお姉さんが嘘ついてる訳ないだろうし。きっと心も綺麗なはずだ。そうに決まってる、うん。


「おッ、俺ァお姉さんの命が失われずに済んで、ホッとしてるぜ」

「キミは心優しいな……ここシャリオンで組んだ冒険者とは大違いだ」


 お姉さんは一瞬、健気そうにはにかんだ後、しおらしそうに顔をうつ向かせていた。


「も、もしかして、冒険者ギルドで募集してた臨時即席パーティーか!?」

「……あぁ、そうだ」

「ってことはさあ!? お姉さんは……ソロだよな?」


 やや答えづらそうに、こくりと頷くお姉さん。


「……不本意ながら、な」


 口数少なく静かに肯定していた。


「ヨッ……ヨシッ」


 なんとか第一関門は無事突破。小声ではあるが、思わず心の声が漏れ出てしまうほど喜んでしまった。


「ゴッ、ゴホン。じゃ、じゃあさ? ソロってことだけど……お、お姉さん的にはさ? 一人の方が好きだったり?」

「さあな。私は気まぐれなんだ……ただ、今は誰かと一緒にいたい気分、かもしれない。例えば――」


 無邪気そうに首をこてんと傾けたお姉さんは、俺の鼻先を指でツンと触りながら言う。


「――キミみたいな童貞クンとか、な?」

「ど、どどどど童貞クン!??」


 童貞というワードでガツンと殴られた俺は、しどろもどろでパニック状態に陥っていた。


「た、確かに俺ァ童貞だけどさあ……ゼファーっつーちゃんとした名前が――」

「――ゼファー。私もお姉さんという名前じゃない。知りたいと思ってくれないのか? 私の名を」


 胸に手を当てながらそう話すお姉さんは、俺を潤んだ瞳で熱烈に見つめていた。


 すぐに答えなきゃいけないのは分かってるのに、俺はただみっともなくうろたえることしか出来なかった。


「そうか、残念だ……」


 そう言って一歩二歩と後ずさりし、顔を隠すように背中を向けてしまう。


(しッ、しまった!?)


 俺が童貞なせいで、お姉さんの機嫌を損ねてしまった。

 こんなしょーもないことでつまづいてたまるかと一歩二歩と足を踏み出し、離れてしまった距離を詰めると、精一杯喉の奥から声をふり絞る。


「し、しししし知りたいッス!」


 俺の必死さが伝わったのか、お姉さんが振り向きながら答える。


「……ユイドラ。ユイドラ・ディジーヴル」

「ユ、ユイドラ……さん」

「さんはいらない、ゼファーは命の恩人だからな。特別に呼び捨てを許そう」

「まッ、まじ!?」

「ん……まじ、だ。ほら、試しに一度呼んでみろ」

「……え? え?」


 あまりにも急激に距離感が縮まり過ぎて、またしても俺の童貞が悪さを働く。


(お互いに名前を呼び合うって……恋人同士がやるやつじゃん!?)


 カチンコチンに硬直した俺の体が脳からの指令を拒んだ結果、俺は石像のように直立不動で固まってしまった。


「どうした? そう難しいことじゃないだろう。さあ呼べ……ユイドラと」

「えッ、あッ……あ、ああ、えっと………………ユ、ユユユ、ユイ……ドラ」


 俺はみっともなくギクシャクしながら、彼女の名前を口にした。

 ただ名前を呼ぶというだけの行為でも、今の俺にとってはとてつもない高難易度クエストみたいなものだった。


(く、くそぅ……これが、これが童貞デバフなのかよお。いくらなんでもこりゃあ、カッコ悪すぎるぜえ……)


 今でさえこの様だというのに、手繋ぎデートなんて無理無理の無理。きっと強すぎる刺激によって、ブルブルと震えておしっこを漏らしてしまう気がする。


「ん……ゼファー」


 吐息交じりに放たれた何気ない一言で、ボフンと俺の頭に湯気が昇る。

 きっと俺が意識を保っていられるのはあとわずかに違いない。幸せなひと時が与える熱によって脳みそが機能停止に陥るまで、もはや一刻の猶予も無し。

 しかし、もはやパーティー勧誘などもうどうでもよくなっていた。


(これが幸せってヤツかぁ……俺、生まれてよかったぁ――)


 と思っていたその時、ユイドラが謝ってくる。


「すまない。加減を間違えてしまったようだ。ふぅ……慣れないことはするものじゃないな。待ってろ、今冷やしてやる」


 次の瞬間、俺とユイドラの間に人の頭部くらいの大きさの女の子が出現した。

 彼女は透き通るような白い肌以外、水色の髪、瞳、ワンピースに二本の角とほぼ全てが水色尽くしで、いかにもひんやりと冷たそうな見た目をしていた。


「フリーゼ、ゼファーの頭を冷やしてくれ」


 フリーゼと呼ばれた妖精みたいな女の子が、ユイドラの耳元でコソコソ話を始める。


「えー? でもでもぉ、この子ってばユイドラにお熱じゃ~ん? なのにキンキンに冷やしちゃっていいのぉ~? アツアツな方が都合よくな~い?」

「ここで倒れられてしまっては、私の頑張りが無駄になるじゃないか。とにかく、今すぐ冷やせ」

「ふぅ~ん? フリーゼはアツアツなままがいいと思うけどなー。それじゃ、はーいピトー」


 意気揚々と飛んできたフリーゼが俺の後頭部にぴったりと貼りつく。

 まるで氷枕みたいにひんやりとしていて、すごく気持ちよかった。あと、プニプニと柔らかい感触も地味に心地いい。


「なあ、この子って……」

「氷の大精霊フリーゼ……私の友達だ」

「氷の大精霊……ふぅ~ん?」


 それがどんなものなのかはわからないが、何となく凄そうな雰囲気はプンプンと漂っていた。


 オーバーヒートした俺の頭が冷えて平静を取り戻すまで、俺とユイドラは無言で沈黙。何となく微妙に気まずかった。


 その沈黙を先に破ったのはユイドラだった。


「……急に黙ってどうした? 私を色々と質問攻めしていたのは、意図があってのことだろう? あれは何かのための前フリだったんじゃないのか? ん?」

「え? え、あ、あぁ~……うん」


 カッと熱くなった頭が急に冷えたせいで、俺の思考は混乱してしまっていた。


「あれ? 俺、何を言おうとしてたんだっけ? ん~でもまあ、どうでもいっか!」

「ほらぁ~!? やっぱり、アツアツな方が都合よかったじゃ~ん! あ~あ、フリーゼの言う通りにしてればよかったのに……」


 そう言うフリーゼの声は、何故か鼻を手で摘まんだみたいに鼻声だった。


 後出しで批判されたのが気に障ったのか、子供のようにムッと拗ねた顔をしたユイドラがフリーゼに反論する。


「うるさい、それは結果論というヤツだ」

「はあ~っ、ユイドラってばいっつもそうだよね~? 私、クールで計算高いですぅ~って気取ってるくせに、肝心な所でやらかすんだもん。ねぇ、これって策士策に溺れるってヤツゥ~?」


 ユイドラはやれやれいつものお小言が始まってしまったか、といった感じで腕を組む。何となく守りに入った気配がした。


「はぁ……人間という生き物は不完全なんだ。失敗くらいする」

「んもぉ、その言い訳聞き飽きたぁ~! いっつもそうやって誤魔化すよねぇ~ユイドラは」


 フリーゼの指摘が図星なのか、ユイドラは腹を立てた様子で言い返す。


「フリーゼこそ、私がこうして頑張っているのに……いっつも偉そうに文句言うだけじゃないか」

「ん~? 頑張ってるって、あのお粗末な色仕掛けのことぉ?」


 え、俺って色仕掛けされてたのか? つーか、何故そんなことを?


「どこがお粗末だ。ゼファーはあんなにメロメロだったじゃないか」

「そりゃー相手が女に対する免疫ゼロな童貞だったからじゃん? ってか、むしろ刺激が強すぎて裏目ってるの気づいてなかったの?」

「この子、チョロいなとしか……」


 ややバツが悪そうなユイドラはしゅんとした感じで縮こまっていた。


 この様子からして、二人は完全に俺の存在を忘れているらしい。


(あの……俺の頭の上で、反省会するの止めてもらっていいっすか?)


 と言いたい気持ちを抑えつつ、二人の会話に耳を傾ける。何となく黙っていた方が、色々と面白い話が聞けそうだと思ったからだ。


「自分が好意を持たれてるのはわかってたよね?」

「……もちろん」

「わかってるなら、何でこっちから仕掛けちゃうかなあ。ただ相手がくるのを待ってるだけで上手くいってたのに……」

「じゃあ何故、それを教えてくれなかったんだ。事前に言ってくれればこんなことには……」

「もぉ~そうやってす~ぐフリーゼのせいにするぅ~!? はぁ~素直に反省しないそういうとこ……ホンット変わんないよね。いつまで経っても子供のままなんだから」


 フリーゼの言葉にカチンときたのか、急に態度をデカくしたユイドラが不服そうに否定する。


「私は子供じゃない。見ろ」


 そう言いながら、組んだ腕で爆乳を持ち上げてタプタプと揺らしていた。


「これの、どこが子供のままなんだ? ん?」


 どうもこんなに大人な肉体をしているから、私は大人だぞとアピールしているらしかった。


「いや、体の話じゃなくて心の話~! フリーゼが言いたかったのは、子供みたいな屁理屈で誤魔化すんじゃなくて、ちゃんと反省して失敗から学べる立派な大人になろうよってコト!」

「……」


 フリーゼの正論に対して、ぐうの音も出ないユイドラは納得いかない様子でプイッと不貞腐れていた。


 正直に言うと、俺の目から見ても子供っぽい印象は拭いきれなかった。

 しかし、大人と少女の境目といった感じの見た目とそれ相応に幼い内面は、ある意味で釣り合っているともとれる。

 つまり、何を言いたいのかというと――ギャップっていいよね、ってことだ。


 少なくとも俺は、ユイドラの精神的な幼さを好意的に受け止めていた。


「ねぇ~ユイドラ、このままだといつか取り返しがつかないことしちゃうと思うよお~?」

「その話はもう終わりにしよう。とにかく、最終的にはこうして僥倖に恵まれたのだから、それでいいじゃないか――終わり良ければ総て良し、だ」


 明らかに分が悪そうなユイドラはとうとう開き直っていた。

 ただ無意識に目を逸らしてしまっていることから、少しは後ろめたさを感じているらしい。


「え~、それこそまさに結果論じゃ~ん?」


 フリーゼのその一言は明らかに痛恨の一撃だった。


(この美人なお姉さん、精霊に言い負かされてる……)


 上手く一本取られてしまったユイドラは、ただ呆気にとられてきょとんとするしかなかった。

 痴話げんかの決着はフリーゼの勝利。この感じからして、二人の力関係的にはどうもフリーゼの方が強いらしい。


「ユイドラは黙ってれば美人なのに、どうして口を開くと残念な人になっちゃうんだろうねぇ。そこのゼファー君も、クールで計算高い美人さんはどこに行っちゃったの~って思ってるよ。きっとガッカリしてるんじゃな~い?」


 いきなり矛先がこちらに向いて、ぎょっとする俺。

 しまったという感じでハッと俺を見るユイドラ。


 非常に悲し気な声で、しおらしそうにしたユイドラが恐る恐る聞いてくる。


「……失望してしまったか?」

「いッ、いやいや! 逆にホッとしたというか、むしろ安心したぜ……俺ァ」


 肯定的な俺の言葉を聞いて、すぐさま安堵するユイドラ。


「だ、そうだぞ? フリーゼ?」


 フリーゼに対して、どうだと言わんばかりにドヤ顔を決めて胸を張っていた。


 しかし、これは恐らく虚勢。一見すると得意げな様子に見えるが、額に浮かぶ冷や汗からして、密かに肝を冷やしてしまっていたようだった。


「ねぇねぇねぇ、ゼファー君? ユイドラのどこに安心したの? フリーゼ、詳しく教えて欲しいなぁ~?」


 俺の正面に回り込んだフリーゼが謎にぶりっ子しながら、そう聞いてきた。


「え? ん~……ユ、ユイドラって別世界のお姫様みてーじゃん? それこそ、クールで計算高い美人さんって感じ?」


 俺の言葉に、ユイドラが腕を組みながらうんうんと頷いていた。


「それに比べて、俺ァ、小汚くて常識知らずでバカなガキに過ぎねーからさ……実は天と地ほど距離感を感じてたんだよ。でも、二人の痴話げんか見てるうちに……俺と大して変わらねーじゃんって気がしてさ? 親近感ってヤツかな? 勝手に遠い存在にしちまってるのは俺自身だって、勘違いしてることに気づけたから……安心したんだ」

「んーつまり要約すると――コイツ、俺と同じガキじゃん……って親近感覚えたから、安心したってコトね?」


 俺がせっかくオブラートに包んで話したのに、フリーゼが全てはがしてしまった。もしかしてこの大精霊、ノンデリカシー……ノンデリか?


「それ、なんか悪意こもってねーか?」

「ないない! 微塵もないって! ところで、ゼファー君はいま何歳?」

「ん? 十三歳、だけど?」


 俺がそう答えた瞬間、フリーゼが腹を抱えて笑い出す。


「ぶふぁ~~~ふぁっふぁっふぁっ! ぎひぃ~ひっひっひっ、ヤバいヤバッ……お腹よじれて死んじゃう死んじゃうゥ~ひゃっひゃっひゃっ!」


 十三歳というワードのどこに笑える要素があるのか、全く見当もつかない。

 しかし、ユイドラに対する悪意からの笑いなのは間違いだろう。


 その時、俺の五感がヤバい気配を察知する。


 大笑いするフリーゼの背後にいるユイドラ。ややうつむいているため表情がわからないが、殺気だけはヒシヒシと感じ取れた。

 それは目に見える形として具現化。ひんやりとした白い冷気がユイドラの方から漂っており、グンと気温が下がっている気がした。


「フリーゼ、一体何がそんなに面白い?」

「ひゃっひゃっ、え? そりゃ、ぷふっ……ユイドラの精神年齢が十三歳相当って、とこに決まってんじゃ~ん。クスクスッ……だって、ユイドラの歳ってh――」


 問答無用で、ユイドラの右手がフリーゼの首を鷲掴みにする。


「――う゛ぐぇッ」


 その汚い声を最後に、フリーゼの姿はかき消えた。


「さて、随分と話が逸れてしまったな。そろそろ、本題に戻ろうか」

「ほ、本題……て、何だっけ?」


 ユイドラの殺気が凄まじすぎて、俺は頭が真っ白になってしまっていた。


 そんな俺の心境など知らず、ニッコリとほほ笑んだユイドラが俺の両肩をガシッと掴む。


「いてッ、いててッ!」


 未だフリーゼへの殺気を引きずったままなせいで、俺の両肩が握りつぶされかけていた。


「あぁ、すまない」


 俺の肩からパッと手を離したユイドラは何かを思い出したかのように、急に真剣な顔で黙り込む。


「ど、どうしたんだ?」


 ユイドラはジッと俺の目を見つめていた。

 それはついさっきみたいな色仕掛けを意識した不自然なものではなく、素のユイドラというか自然体のありのままな姿だと思った。


「お粗末な色仕掛けはもう止めだ、単刀直入に言おう。私をゼファーのパーティーに入れて欲しい」


 俺の方から勧誘しようと思っていたのに、まさか逆に申し込まれるとは。

 もちろん大歓迎ではあるが、その前に少し聞いておきたいことがあったので尋ねてみる。


「一つだけ、聞いていいか?」


 ユイドラは無言で頷く。


「どうして、下手くそな色仕掛けなんてしたんだ?」


 正直、その下手くそな色仕掛けでメロメロになってしまった俺には聞く資格はないのかもしれない。だけど、わざわざそこまでする理由がどうしても気になってしまった。


「……それは、まだ詳しくは話せない。だが、パーティーに入れてくれれば必ず話す。正直に全てを」


 ユイドラの言葉に嘘はなさそうだった。というか、仮に嘘だったとしても関係ない。


 たとえ騙されることになったとしても――俺はユイドラを一途に信じようと思っているからだ。

 だって、この女性は俺の初恋の人だから。一目惚れしたキレーなお姉さんにだったら、案外騙されても気分は悪くないかも。なんてな。


「ふぅ……俺ァ、初めて会った時からパーティーに誘うつもりだったんだぜ? だから、無理に話そうとしなくてもいい。けど、そうだな。今後一切、下手くそな色仕掛けなんつー小細工はしないって……それだけ、約束してくれるか?」

「あぁ、約束しよう」


 これから言う事は割と恥ずかしいから、俺はちょっとだけユイドラから目を逸らす。


「今の内に言っとくが……俺は死ぬ時まで、いや死んだ後もずっと信じてる。だから、俺たちのパーティーに入ってくれ――ユイドラ」


 ユイドラが俺に微笑みかけながら答える。


「ありがとう、ゼファー。不束者だが……よろしく頼む」


 俺はただ無言で右手を差し出す。握手のために。

 すぐに、その手をユイドラが握り返してくれた。


 そして、俺はユイドラの右手は握りながらこう思った――ひんやりとしていて、柔らけーなと。

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