第18話 ヤベーお姉さんはなんと……

「カワユイ……♡ 初めまして、ツインテ美少女ギャルちゃん。私の名はライザ・エル・レ・リーズロール。至高の美少女ハーレムを目指して、世界を旅する者だ。どうだろう……私たちのパーティ、百花繚乱に入らないか?」


 ヤベーお姉さんこと――ライザがイルヴィの手を握って、パーティー勧誘をしていた。その最中、さりげなく恋人繋ぎまで。

 明らかに私利私欲を満たすためだけに、より密接に指を絡ませていた。


(はあ? このヤベーお姉さん、またナンパがてらパーティ勧誘してる……)


 と俺は心の中でドン引きしていたが、割とイルヴィはまんざらでもなさそう。

 じろじろと真紅の癖っ毛ロングヘア―な美女ライザを値踏みしていた。


「エーッ……どーしよーカナー? あーし、前衛ポジのタンク希望なんですけどォ……メ~ッチョカッコいい全身甲冑着れますゥ~?」

「キミが望むなら、最高の職人と最高の素材で用意しようじゃないかっ!!」

「キャーッ、あーし入りま――」


 ご成約直前でイルヴィとライザの間に割り込んだガルカが、二人を引き離して横取りを阻止する。


「――ちょっと待ってくれェエエエ!? あのねぇ、イルヴィは僕たちが先に誘ってたんです! それに、急に割り込んで横取りとかマナー違反じゃないですか?」

「これはまた鬱陶しそうな、純情少年が湧いて出たなー。あぁもう、シッシッ……勘違い童貞クンはお呼びじゃないんだっ、帰れ帰れっ」

「どッ、どどど童貞で何が悪いッ!? というか童貞かどうかは全然関係ないでしょッ!??」


 俺はかなり面倒くさいことになってしまったなと頭を抱える。

 しかし、このままほったらかしもできない。


 非常に渋々ながら一触即発な二人を仲裁するため、ガルカの前に立ちライザと相対する。なるべく顔を逸らして自衛も忘れずに。


「うちのガルカが悪いな。だが、先に声を掛けたのは俺たちなんだ。だからここは一旦、順番にイルヴィを勧誘し――」


 突然、ライザが俺の顎をクイッと持ち上げ、腰に手を添えて引き寄せる。


「――おおおおおおおおお!? キミは私が泣く泣く諦めた銀髪ロリ俺っ娘美少女じゃないかッ!? まさかこんな修羅場で再会を果たすなんて……やはり私とキミは運命の赤い糸で結ばれているらしい。どうだろう……キミも私たちのパーティー、百花繚乱に入らないか? キミとツインテギャルの美少女ちゃんで、ちょうど四人なんだ」


 顔を見せないようにした努力は全くの無意味だった。

 あぁ、もうマジ面倒くさい。いっそのこと男だと明かしてしまえば、あっさりと諦めてくれるのでは?


 そう思って、俺はライザをキッと睨みつけながら言う。


「あッ、あのさあ……俺ァ、美少女じゃなくて男なんだよ」

「ん?」

「お・と・こ! 俺ァ、ちんちんついてるっつってんの!!」

「なッ、なにィ~ッ……そ、そんな、そんなの――」


 俺のセリフに愕然とするヤベーお姉さん。いい具合にショックを受けているみてーだ。


 よしよし、この調子ならどうにかなりそうだな。


「――最ッ高じゃないかッ!??」

「………………はあ?」


 ヤベーお姉さんの反応は俺が想像していたものと全然違っていた。

 あまりにも想定外すぎて、俺の脳みそが思考停止してしまうほどだった。まさか逆にショックを受けさせられるとは夢にも思ってなかった。


 どうにかなりそうとか思ってた俺の考えは、随分と甘かったらしい。


 本当に俺と同じ人間なのかこのヤベー女はと、俺が疑いの眼差しを向ける中、頬を紅潮させたヤベー女が熱く性癖について語り始める。


「んッはぁ~~~、カワユイ子にちんちん生えてるとか、カッコいいドラゴンが実は美少女に変身できますってヤツ並みに、最高の組み合わせじゃないかッ!? 損どころかむしろお得ッ……というか、この私にとって見た目さえカワユければ性別など気にならん。どれ、ちんちんごと愛してやろうじゃないか、フハハハハッ! うぉおおお、心の●棒がたぎってきたァアアアーーーッ!!」


 ゾワゾワゾワーッと人生で一番強烈な悪寒が走り、全身から血の気が引いていく。


(あぁ、コイツはただの変態じゃねえ)


 この広い世界には、俺の想像を超えた特殊性癖を持った人間が存在することを初めて知った。きっとドスケベを極めた人間は皆、ある時点でこうなってしまうんだ。ド級の変態に。


(ド変態じゃねーか!?)


 可愛ければ男でも何でもいける、ド変態は俺の手に負えない。

 いや、待て。相手が女性なのだから、可愛ければ男でもいけるのは何もおかしくないのでは。あれ?


(ダメだ。もう、なんもわからん……)


 だがしかし、唯一これだけはわかる。

 今この瞬間、俺の貞操が危機に晒されているということだけは。


 俺は必死で脳みそをフル回転させて、この状況からの脱出を模索する。


「あッ、あッ、あぁ……そうだ! おッ、俺ァ、悪名高い小人族ピースリングス――」

「――美しい瞳だ。私は好きだぞ?」


 あぁ、終わった。もうお終いだ。

 非力な俺が筋肉ムキムキのド変態に敵うはずがない。


 そうか、これが……捕食される生き物の気持ちなんだな。


「キミにはフリフリのワンピースが似合いそうだなー。よぉーし、お姉さんが買い与えて、直接手取り足取り……着せてあげようじゃないか!?」


 ライザ・エル・レ・リーズオールというヤベー女はド変態の美少女マニアだった。


(だッ、誰かぁァアアアッ!? 俺を助けてくれェエエエーーー!??)


 恐怖ですくみ上っているせいで、俺の魂の叫びは喉でせき止められ、外に出ることはなかった。

 同時に、体まで縮こまってしまい全身が硬直してしまっていた。


「なーに、心配するな。最初は違和感があるだろうが、いずれそこにいるセラ――セラフィールのように自然と受け入れられるようになる」

「セラ?」


 セラフィールというのはいったい誰のことだ?


 ド変態の美少女マニアがいったい何を言っているのか。

 それを探ろうとヤツの視線を辿ると、猫人族ウェアキャットの美少女の方を見ていた。


 そのセラと呼ばれた美しい薄水色セミロングヘアー美少女は四つん這いになり、地面に耳を当てて何かをしていた。

 もしかすると、周囲の警戒か? それとも、現実逃避だったりするのか?


 とりあえず、この際どちらでもいい。

 スケベな猛獣にはちゃんと首輪をしてくれないと困る。

 いや、本ッ当に困るぜ。


「あーそっかそっか。言われないと分からないよなー。セラは正真正銘――男だぞ」


 俺とガルカ、イルヴィがバッとセラフィールに注目する。


 男だと言われたが、どこからどう見ても美少女にしか見えなかった。


「エー流石に信じられナーイ!」


 そう言って、イルヴィが四つん這いのセラフィールに背後から近寄り、


「ちょいシツレーするネー……ほいっ」


 と言いながら、大胆にも両手で股間を鷲掴みしてしまう。


「ふんふん、なるほどなるほど?」


 さらに、素早く一揉み、二揉み、三揉みと手を動かす。

 何気にイルヴィもヤベー女だった。


「ふあ~ッ!? アッ、ちょッ――」


 完全に油断していたセラフィールが驚きながら大ジャンプ。樹の上に飛び乗って周囲をきょろきょろと見回していた。


「ワー確かにオトコノコだったー。ガチでビックリったんだけどォーってゆーか、デッ――」


 貞操の危機を感じて内股になるセラフィール。

 彼女、いや彼の薄水色の瞳が、股間を触ってきたイルヴィを睨みつける。


「――なッ何なんですか!? いきなりデリケートなところを鷲掴みなんてッ、この女頭おかしいですよ!! 信じられません」


 それから、俺を抱くド変態の美少女マニアを視界に入れる。


「……って、こんな非常事態の中でまた盛ってるんですか!! 本ッ当にいい加減にしてくれませんかねぇ、いつだって謝るのはボクなんですからっ!」


 そう言って、軽やかな身のこなしで樹の上から降りると、俺からド変態の美少女マニアを引き剥がす。


 俺の貞操はギリギリのところで危機を免れた。


「お、おいセラ! 何で私からカワイ子ちゃんを取り上げるんだ! あの二人がパーティーに入れば、私たちは結成四年目にしてようやく四人になるんだぞ?」


 さらっと俺が頭数に入っているのが本当に怖い。

 いやぜってーに入んねーからと、俺は心の中でツッコミを入れる。


「ようやくって……あのですねー、今まで四人揃わなかったのは、ライザが入ったメンバーを片っ端から夜這いするからでしょう? しかも初日に。その結果、ついた悪名が美少女イーター……そのせいでまともな人が寄り付かなくなっちゃったんですからね? 自覚あります?」

「あのなー? 逆に聞くがこの私が……美少女を目の前にして、大人しく待てを出来ると思うのか?」

「そんなこと言われても、してもらわないと四人揃わないですよ?」

「ぐぬぬぬぬっ……だッ、だが、この性根は死んでも治らん! というか治すつもりは毛頭ないからな!!」

「何でそこだけ自信満々なんですか!?」


 痴話げんかを始める二人に、ガルカが注意する。


「あの……あのッ! とりあえず一旦落ち着きませんか? 和気あいあいと騒いでますけど、今はまだ非常時ですよね?」


 気の抜けた雰囲気を軌道修正するために、ガルカが率先して場をまとめようとしていた。

 どうやら、この場にいる五人の中で、唯一常識人なのはガルカだけみたいだ。


 スケベ全開だったライザの間抜け顔が、スッと真剣な顔つきに変貌する。


「心配ない、安心しろ。周囲の警戒はセラの探知魔法で索敵済みだ」

「探知魔法……ですか?」


 ガルカの疑問に対して、セラフィールが自らの口で説明する。


「ボクが今使ってる探知魔法、ミストヴェールは範囲内に入った人や魔物、魔獣、動物など実体を持った生き物を探知する魔法なんです。だから、透明化した金仮面デウラトゥスでさえも探知できるんですよ?」

「なるほど、ってことは……その魔法で僕たちを発見したんだね。ちなみに、探知範囲はどのくらい?」

「えっと、大体……視線が届く距離ですね。ボクを中心にミストヴェールを円形状に展開すれば、全方位の広い範囲をカバーできるので、今まで金仮面デウラトゥスとの無駄な接触を避けられて来たんです」


 俺は一般的な探知魔法の基準を知らないから詳しくはよくわからないが、


「視線が届く距離を、全方位に……だって」


 とびっくりした様子のガルカを見る限り普通じゃなさそうだ。


「ふぅ~ん? セラフィールって天才ってヤツか?」

「いッ、いえいえそんなそんな……ボクはただ幸運だっただけです。たまたまこの薄水色の髪色を授かったからですし、ライザにも……」


 そう言って、セラフィールは大げさに謙遜していた。

 しかし、髪色が薄水色だったからというのはどういう意味なのか?


 俺が困惑した顔でライザを見ていたら、俺の疑問を察知して答えを教えてくれた。


「部族国連合ザッハでは希少色ロストカラーズと呼ばれる特別な色があってだなー? それぞれの種族が信仰する偉大なご先祖様が持つ色なのさ。狐人族ルナールはピンク、狼人族ワーウルフはシルバー、牛人族ミノスはパープル、獅子人族レオズはブロンズ、ダークエルフはゴールド、そして猫人族ウェアキャットはブルー。大体が髪色に現れるんだが、その色を持って生まれた者は偉大なご先祖様の力を授かるってわけ」

「へぇ~つーことは、セラフィールの魔法がすげーのはご先祖様が助けてくれるから、ってことか」


 特別な色とされる希少色ロストカラーズ

 謙虚そうなセラフィールにとったら、自慢しているような感じがして話しづらかったのかもしれないな。


 俺の言葉を聞いて、パァっとセラフィールの表情が明るくなる。


「わぁ~その表現、素敵ですねー! 今度からそれ、使わせてもらいます!」


 話が一段落したところで、ライザが自己紹介を促してくる。


「さて、安全は確保されているとわかったところで……各々の名前と種族、職業型ジョブタイプなんかを教えてくれ。そうだなー私はカワユイ美少女ちゃんの麗しい名前が知りたいぞー? ということで、まずはツインテ美少女ギャルちゃんから自己紹介をお願いしようか」


 指名を受けたイルヴィがシュバっと元気よく挙手して、早速自己紹介を始める。


「ハイハーイ! あーしはイルヴィ・オルステラ、十三歳。見てのとーり、ドワーフの血が半分入ってて、もう半分はよくわかんない。職業型ジョブタイプはエーっと、重戦士ヘビィアーマー。あとあと、シュミはオシャレとお店で全身甲冑を眺めるコト! シクヨロー」

「イルヴィか……美しい名だ。おしゃれが好きということなら、ファッションの最先端、商都リスタの最新トレンドをいち早く仕入れている高級ブティックを知っているから、今度一緒に行かないか?」

「おごってくれるならゼヒー!」

「あぁ! たくさん買ってやるとも!! それじゃあ、次は――」


 ライザの発言を遮って、ガルカが強引に自己紹介をする。


「――僕はガルカ・コルベリク、同じく十三歳、ヒューマン。職業型ジョブタイプは将来的に長剣士グランセイバーを目指しているけど、今はまだ剣士ソードマン。そして、僕の夢はドラゴンズ・エルドラードをこの目で確かめること! よろしく」

「…………私はカワユイ美少女ちゃんたちの麗しい名前が知りたいと言ったんだぞ? 勘違い童貞なお前なんぞの自己紹介は頼んどらーんッ!??」


 そう言ってライザは両手でこぶしを握り締めるほど、怒りと不満を露にしていた。


「このハーレムバカ、ぶん殴っていい?」

「すみません……ウチのバカがホント、すみません。できれば仲間割れしない方向で……あの、まだ非常事態の最中ですし」

「よぉ~し! 気を取り直して、次はカワユイ童顔と美しい瞳がチャームポイントなキミだ!?」


 一体誰のことを言っているのかと思ったら、こっちを指さされてしまった。

 残念ながら俺のことらしい。


「はあ~全然納得いかねーけど……俺はゼファー、十三歳。見ての通り、小人族ピースリングスのハーフ。荷物持ちポーター、よろしく」

「おいおい、流石にあっさりしすぎじゃないかー? もっとパーソナルな情報をおくれよー、そうだなー……例えば好みの女の子のタイプとかどうだ!?? 私はカワユイ美少女が大好きだぞー!!」

「別にそんなこと、どうでもいいじゃねーか。ほら、次はあんたたちだぜ?」


 ガッカリした様子のライザはセラフィールの方を見て言う。


「じゃあ、次はセラだ」

「あっ……はい、わかりました。ボクはセラフィール・サーロウ、十六歳。耳と尻尾から分かる通り、猫人族ウェアキャットです。職業型ジョブタイプ上級魔術師アークメイジ。好きなことは食べること、趣味はご飯屋さん巡りですね。よろしくお願いします」

「さあて、最後はこの私だな!!」


 俺とガルカ、イルヴィが口をそろえて言う。


「「「知ってる」」」

「それは名前だけだろー! いいか、よく聞け! 私は麗しきセブンティーンのヒューマン。こう見えてなんと、金等級冒険者で剣槍使いソードランサーであり――貴族なんだぞー!」

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