第17話 奇妙な再会
俺たちは足を止めることなく、無我夢中で樹海の中を駆け抜けていた。
するとその途中、ガルカに背負われているピンク髪ツインテの美少女――多分ハーフドワーフのギャルが目を覚ます。
「ンぅ~はれぇ~……ここドコォ? ってかさー、アンタら……誰ェ?」
ゆっくりと見開かれた瞳が俺たちを捉える。
その瞳は銅のような金属色。気を抜くとうっかり心を引き込まれてしまいそうな、そんな魔性が秘められている気がした。
ガルカが樹の幹を背もたれにして、背負っていたギャルを優しく降ろす。
「僕はガルカ・コルベリク。こっちのちっこいのはゼファー」
「ちっこい言うな」
ギャルは呑気にあくびをしながら、背伸びをする。
何とも緊張感に欠けた様子だった。
そんな彼女に、頬を赤く染めたガルカが色々と確認したいことを尋ねる。
「えッ……えええっとさ? キッ、キミの名前を訊いても……い、いい?」
「おいガルカ、流石に緊張しすぎじゃねーの? それじゃ、童貞感丸出しじゃんか」
「うッ、うるさいよッ!?? どうせ、君だって童貞のくせにッ……」
俺たちのやり取りを見て、ギャルがくすくすと爽やかな笑みをこぼす。
「アハハッ……あーしの名前はイルヴィ・オルステラだよ。えーっと、童貞クンたち?」
「ちょっとゼファー!? 君のせいで、僕の第一印象が童貞になっちゃったじゃないかッ……責任とれよおッ!!」
俺の胸ぐらを掴むガルカが、血涙を流しながら悔しがっていた。
「まぁまぁ、落ち着けって。とりまイルヴィの仲間とかさあ……もし大丈夫なら、気を失う前のこととかもさ? 色々と訊きてー事あるだろ?」
「それは……まぁ、一理ある。その……訊いても大丈夫、イルヴィ?」
紳士の様な優しさを見せるガルカだったが、目線は一切合わせていなかった。
まだまだ照れくさいらしい。全く、同じ童貞とはいえこうはなりたくないものだ。
一方、イルヴィと名乗ったギャルの方はあっけらかんとした態度で平然と答えていた。
「ンーッとぉ~あーしの仲間はァ……あーしをオトリにして、さっさと逃げちゃったから……知らナーイ」
「マジかよ、全く……薄情なヤツらだな」
俺はガルカみたいな臨時即席パーティーの話を思い出しながら、そう言った。
「ネー、いくら臨時即席パーティーだったとしてもさー……ありえなくな~い? ヤーあの時は流石に、マジで死んじゃったって思ったねー」
どうやら、俺の想像通りだったらしい。
ということは多分、イルヴィはソロの冒険者なんだろう。ふと横のガルカに視線を送ると、同じくこちらを見返していた。
きっと同じことを考えているにちがいにない――パーティーに誘うチャンスだぞこれはと。
「イルヴィが生きててくれて、僕は嬉しいよ」
おいおい急にどうしたんだ、ガルカのやつ。いきなり距離感近くなりやがって、ちょっとキモイぞ。
俺らとギャルは初対面だぜ~?
「エー、なんかきゅーに距離感近くな~い? あ、もしかしてェ~、あーしのカレピにでもなる気なのォ~? チョーウケルんですけどォ~でも、ゴメンナサーイ。あーし的にはシンミツなお付き合いはちょっと……勘弁ってカンジ?」
あーあ、ガルカのやつやっちまったな。これだから童貞はさあ……。
その意味深な言葉を聞いて、ガルカが愕然としながらその意味を問う。
「もッ……もしかして、過去にそういう相手がいて……何かあったの?」
「ぜんッぜん、チッガいますゥ~! あーしはしょ――ゲフンゲフン……誰かと一歩踏み込んだ関係がムリってだけでェ……トモダチくらいなら別にィ、ヘーキだよー」
「そ、そっか。わかったよ。それで……仲間に囮にされた後はどうしたの?」
顎に人差し指を当てたイルヴィは記憶を思い出しているのか、少しづつ語り始める。
「ンー
あの黄金の怪物と一対一で粘れるということはこのギャル――意外と実力者なのかもしれない。
俺はギャルの頑張りをねぎらう。
「スゲーじゃん? あんな化け物と一人でやり合えるなんて、憧れちまうぜー」
「ヤー、別にそんな大層なハナシじゃなくってェ~。ただあーしが
自分の
ギャルの防具はボロボロで原型をとどめてなくて、
「謙遜すんなって、俺は十分誇っていいと思うけどな?」
「イヤイヤー、ホントそんなんじゃないの。あの時は、変にカクゴが決まってたというかァ~……元々、あーしは天涯孤独の身だし、もぉこのままオワッてもいっかなーってカンジだったからこそ、恐怖とか怖れ? から解放されて、実力以上に戦えたんじゃないカナ? つまり、背水の陣ってヤツぅ?」
イルヴィというギャルは随分とあっさりしていた。
いや、むしろ生に対する執着がなさすぎる。自分の命すら軽々しく扱うなど、ちらほらと異常性や歪みが垣間見えていた。
そんなイルヴィに、ガルカが悲しそうに言う。
「女の子なんだから、自分のことは大事にしなよ? いったい、どうしてそんな――」
「――アハハッ……そんでやられるーって直前に、オジサン三人と白髪のおじいちゃん戦士のパーティに助けられたの! ってェ、その人たちいないケド……ドコォ~?」
イルヴィはプライベートなことに触れてほしくないからか、一歩踏み込もうとしたガルカを笑ってごまかしていた。
案外、このギャルは心に闇を抱えてそうだな、なんて俺は思った。
俺とガルカは互いにアイコンタクトを取る。
その意味は真実を伝えるかどうかについて。
俺は静かに首を横に振る。
なぜなら、イルヴィがおじさん冒険者三人がやられている所を見ていない反応を見せたからだ。いたずらに彼らの死をギャルに背負わせる必要はない。
それに、変に刺激してトラウマとか発症しちまったら、面倒だしな?
ガルカが気を利かせて、優しい嘘をつく。
「その人たちはね、他の助けを待ってる人を救助するために……イルヴィを僕らに預けて、どこかに行ってしまったよ」
「ソッカー……ドコカでまた会えたら、助けてくれたお礼言わなくっちゃネー」
俺は話題を切り替えるために、イルヴィが遭遇した
「なあ、イルヴィ? お前が戦った
「ンー……そーそー! ソイツねー、下半身が竜で上半身が人間だったんだケドー……騎士様みたいな黄金の全身甲冑を着てて、メ~ッチョカッコよかったのー!!」
なんとイルヴィが接敵した
すぐに逃げ出したガルカと一対一で戦ってカッコイイと話すギャル。こうまで対応と反応に差が生まれるものなのか。
この二人は割と正反対な性格をしているのかもしれないな。
自分が怖れを抱いて逃げ出した相手をカッコいいと話すイルヴィに対して、ガルカがあきれ果てていた。
「全くもう、死にかけたっていうのに……何でそんなにテンション高いのさ」
「ダッテダッテー!? あーし、役割的には前衛職のタンクっしょー? だから、ソイツみたいなガッチガチに守り固めた全身甲冑にアコガレてんだよネー! あーしもああいうの着たいー!!」
ガルカが一瞬だけ俺を見て、今から僕たちのパーティに勧誘するぞとアイコンタクトしてくる。
俺はそれに頷き返して、ゴーサインを出した。
「だったらさ、その……イルヴィが憧れる全身甲冑を絶対に手に入れてみせるから!! 僕たちのパーティに――」
次の瞬間、
「――うっはー!? ペッペッ……おぉ~~~! セラの言う通り、ちゃんと生きてる人がいたぞーッ、こんにちはー!! 突然なんだが、キミたちの知り合いに美少女はいないだろうか?」
そう型破りな挨拶をしてきたのは、俺たちよりも四、五歳くらいは年上の女性だった。
ところどころが外はねした真紅の癖っ毛ロングヘア―に沢山の葉っぱが付いているため、一見身だしなみに無頓着な印象を持つ。
しかし、彼女が来ている服は細部のディテールにまで手が込んでおり、その仕立てはかなりの高級感があった。
またそれら豪勢な服をパツパツに押し上げる筋肉は見事な筋肉美が光っていた。
鮮血色に光る鋭い眼光と八重歯がどこか野性味を感じさせて、生命力と力強さが溢れんばかりに漂う。
その上、俺よりも頭三つ半くらいは高い身長。それと風船のように膨らんだ爆乳と引き締まったウエスト、ヒップラインが組み合わさった美ボディは圧巻の一言だった。
まさに絶世と言える超絶美少女が突然出現した――ってこの人はまさか……?
俺の数時間前の記憶が、確実にこの人の外見に見覚えがあると訴えていた。
(あぁ~~~ッ!?? コイツ、俺を銀髪ロリ俺っ娘美少女とかぬかしやがったヤツじゃねーか!!!)
修羅場と化した第二層で、俺はキレーだがヤベーお姉さんと奇妙な再会を果たしてしまったようだ。
「ぷっはー!? いくら最短距離だからって……何も茂みの中を突っ切ることはないでしょうに……ねぇ、ライザ?」
次にズボッと現れたのは、俺より頭一つほど身長が高い可憐な女の子。
よくよく頭を見ると猫耳がぴょこんと生えていて、それは彼女が
(こっちも見たことある! めっちゃ常識的で大人な対応をしていた人だ!!)
真っ平な胸と非常に華奢な体型、透明感のある薄水色のセミロングヘアーが、薄幸の美少女という印象を抱かせる。
またスカートではなくショートパンツ姿なのが男装の麗人を思わせ、老若男女問わず人を惹きつける魅力に溢れていた。
ライザと呼ばれた真紅髪の女性の瞳がキラリと怪しく光る。
その邪悪な眼光は地面に女の子座りするイルヴィを見逃さなかった。
とんでもない速さでシュババババッと駆け寄って、両手で包み込むようにイルヴィの手を握る。
二人の雰囲気はまるで王子様とお姫様のようだった。
(あれ? さっきまでいたはずのガルカはどこに?)
二人の周囲を目だけで探ると、頭から茂みにつっこんだガルカの尻だけが見えていた。
どうやら、邪魔なガルカはヤベーお姉さんによって、ドンと弾き飛ばされていたらしい。
「カワユイ……♡ 初めまして、ツインテ美少女ギャルちゃん。私の名はライザ・エル・レ・リーズロール。至高の美少女ハーレムを目指して、世界を旅する者だ。どうだろう……私たちのパーティ、百花繚乱に入らないか?」
ヤベーお姉さんは俺に言ったことと同じセリフを、イルヴィに言っていた。
このヤベーお姉さん、マジで美少女に対して見境がないらしかった。
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