第17話 おちょくって遊ぼう(マシロ視点)


―――学園爆破から数時間前……。



「む。今日のエロ本は緊縛かあ……。」


 中村という叩けば音の出るおもちゃがいなくて暇なおれは茂みから出てきたくらげっち秘蔵のエロ本を他の生徒のベットの下に置いておくという遊びをしていました。中村は運動が全くできないのでおれの動きについてこれないのです。

 元から運動のできない人間が年齢を重ねたので二度とおれについて行くことはできないでしょう。可哀そうに。いずれ彼には肉体改造を施してあげましょう。


 初めてくらげっち秘蔵のエロ本を見つけたのはこの学校に来てから次の日に見つけました。こんなところに隠れていてはもったいない。せっかくなので、生徒の寮に設置されているベットの下にこっそり置いておきました。えっへん。それにしても何で茂みの中に隠すように置かれているのでしょうか。堂々と見せておけばいいのに。人間社会には不思議がいっぱいです。


 人間の思春期のオスにとっては、性癖語りは仲良くなるための第一歩であると船の図書館にあった『簡単! 人間と仲良くなる方法!』という本にも書かれていました。

 あと、掲示板で相談したらエロ本バラまいとけというありがたいアドバイスも頂きました。先に人間社会に馴染んでいる先輩からのアドバイスなのできっと間違いないです。

 早くおれに話しかけてくれないかなあ。わくわく。


 それにしても何で見つかるエロ本はみんな男同士が絡み合っている肌色成分多めの本しかないのでしょうか。この世界の特性上そうなってしまうのは仕方ないですが、どうせなら女の子のエッチな本の方がよかったです。しょんぼり。


 あ。そういえばそろそろ夕ご飯の時間ですね。食堂に中村がいるかもしれません。行ってみましょう!


………

……


 中村はいませんでした。どうやら今は生徒会室にいるらしいです。ムカついたので中村のベットの下にもエッチな本を10冊ほど置いておきましょう。彼は女の子の方が好きなので、この男同士が絡み合っているエロ本に大ダメージを受けることでしょう。へへへ、今からヤツの反応が楽しみです。


 それでも中村がまだ戻ってこなくて暇なおれは生徒の部屋にベットの下にエロ本を置いておきました。なんかやたら豪華な部屋でしたが、そんなことは気にしません。この縄でいっぱい縛られている本を置いておきましょう。うーん。絵柄は好みだからやっぱり女の子の方がよかったなあ。


エロ本を置いた帰り、おれはぽてぽてと自分の背丈の2倍ほどのエロ本を持って茂みの中に入っていくシャッチョを見つけました。本を目の前に持っているので、目の前が見えずに転んでしまうことはないのでしょうか。


「シャッチョ? 何してんの?」

「キュキューイ? (マチロー?)」


 茂みをゴソゴソと探っていると、シャッチョが男同士の肌色成分多めの本を置いていました。なるほど。シャッチョが置いていたんですか。それにしても何でこんな本を置いて行っているんでしょうか。


「その本、シャッチョが置いてたの?」

「キュキューン! (そうだよ!)」

「なんで?」

「キュキュキューイ。(こんなのヒダカに見つかったら大爆発するからだっキュ。)」

「そっかあ。」


 ヒダカも女の子の裸の方がよかったんですね! 今度女の子のエロ本を差し入れしてみましょう。


「キュキュー……? (おめー、またヒダカに余計なことしようとしてねえっキュかあ……?)」


 シャッチョが怪訝な顔で俺のことを見ています。注目が集まるのっていいですね。自分の他に会話ができる知的生命体が近くにいる感覚はたまらないです。


「失礼な。ヒダカに女の子のエッチな本を差し入れするだけだよ。」

「キュキュー。(今までそんなの見たことない男の子には刺激が強すぎるから駄目だっキュ。ヒダカが大人になるまで待つっキュ。)」

「そっかあ。」


 そういえば最近ヒダカと会話していませんね。最近、ちっこい同級生どもがおれの周りでやたらピーピー鳴いて騒いでいるので、この間、ご飯を奢ってあげたらさらに大きな声でギャンギャン鳴いていました。とっても元気な雛たちですね。


 でも、好き嫌いが多いのはどうかと思います。せっかく人が苦労して人型昆虫をとっ捕まえて粉末状にして食べやすいように飲み物に混ぜり、引きちぎって食べやすいように加工したのに何でみんなして吐き戻してぐったりしてしまうのは何故でしょうか。理解できません。まあ、確かに食堂のご飯よりはおいしくないですけど。


うーん。なんだかヒダカとの会話が恋しくなってきました。彼ならおれが話しかけたら必ず構ってくれます。語彙力がなんか罵倒方面に偏っている気がしますが、きっと気のせいでしょう。


「キュキューイ! (もうすぐご飯の時間だから帰るっキュ!)」

「ええー。どうせならシャッチョもここで食べればいいのに。」

「キュキューン。(ここのご飯不味いから嫌だっキュ。)」


 シャッチョの味覚は贅沢ですね。でも船のご飯が美味しいのはそのせいでしょう。他人が作ってくれるご飯は美味しいです。


「シャッチョ、中村見てない?」

「キューイ。(見てないっキュ。)」


 なんてことでしょう。中村はおれを置いていったようです。

 中村は放っておいたら自分一人で食事と睡眠をすませようとする薄情者です。ですので、毎回見つけ次第、彼の懐に潜り込んだり、隣か向かい側にこっそり座っているのですが、そのたびにヤツは怪訝な顔をします。

 今の俺の顔は美少女顔なのに何故嬉しそうな表情をしないのでしょうか。人間というものは理解できません。


「キュキュー。(にゃかむらがくらちゃんにおめーのことわけわかんねーって相談してたっキュ。)」

「表情コロコロ変えてるのに……。」 

「キュキュイ。(おめーなんも表情変わってないっキュ。)」

「ええ。」


 せっかく映像資料をたくさん見て人間の表情筋の動かし方の真似をしていたのに全然出来ていなかったというのですか……。ショックです。

 後ろから蹴りの衝撃を受け、おれは前に倒れます。おれのぷりちーフェイスが台無しになってしまうではないですか。あ。今は芋くさフェイスでした。しかし、この蹴り方は……! と思い、後ろを振り返るとそこにいたのはヒダカでした。


「おい。」

「おれがいなくて寂しくて来ちゃったんだね!」

「んな訳ねーだろ。お前頭沸いてんのか?」

「ツンデレなのね!」


 ヒダカに無言で蹴られました。あーこれこれ! これがヒダカですよ! やっぱり彼はツンデレなんですね!


「冗談なのに怒んないでよ。ポンコツロボ。」

「あ“?」

「ほら、シャッチョならここに……。」


 あ。これシャッチョが茂みの中に置いていったエロ本ですね。間違ってしまいました。てへっ。

それにしても今回のは下半身不随の子に色々やらせるモノですか。相変わらず趣味の悪いエロ本ですね。


「キュキューイ!! (それヒダカに見せないで!!)」


 シャッチョが叫び終わらない内に唐突にヒダカがビームを撃ってきました。おれは咄嗟に避けましたが、エロ本は無残にも塵となっていました。さらばR18禁のBLエロ本。くらげっちの私物なのでおれにとっては全く惜しくない命です。さよならエロ本、君のことは5秒くらいは忘れない。


 それにしてもおかしいですね。今までもヒダカから暴力を受けたことは多々ありますが、何だかんだ彼の装備である一番殺傷力の高いビームを撃ってきたことは一度もありません。

 おれは不満を抱きながらヒダカの方を振り向きます。彼の目を見て、おれは直感しました。




 あ。これガチで駄目なやつだ。


「キュキュイキュー! (ヒダカ落ち着いてー!)」


 どうやらヒダカは正気を失って学園をドッカンドッカンビームを撃ちまくって破壊しているようです。ついでに吸ったらダメな瘴気も出してますね。


 ヒダカ……。そんなに女の子の裸が見たかったんですね……。そんなに思い詰めていたなんて知りませんでした。今度、彼には少年誌のハーレム系ラブコメ漫画を差し入れしておきましょう。

 破壊音が鳴り響き、降り注いでくる瓦礫をサクサク避けながらおれは静かに決意するのであった。

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