第16話 禁書事件 3/3
あの後、生徒会室で犯人捜しの作戦会議をした後、時間も遅くなってきたとのことで帰された。
明日から放課後、風紀委員の人と学園の巡回することになった。知らない人と一緒に行動するのやだなあ。修学旅行の時の既に出来上がってるグループに入れてもらうよりはかはるかにマシだけれども。うっ、学生時代のトラウマが。
俺は一人、勝手に落ち込みながら辺りがすっかり暗くなった廊下を歩く。一応明かりはポツポツとついているけど、それでも全体的に暗くてなんかでてきそうで怖い。俺、ホラーゲームだけは苦手だからゲーム実況でもやってないんだよ。妹からは生声でやればいいのにって言われたけど、俺は絶対やらねえぞ。
それにしても禁書をばらまいた犯人を捜すことになる羽目になるとは……。本当に誰だよ。あんなやべえ性癖のR18指定のエロ本ばら撒いたの。あれは人によってはトラウマになるぞ。
「あっ! 中村さんだあ! ちわーっす!」
……今くらげの声が聞こえてきたけど、きっと気のせいだよな。アイツ、この学校には入れないって言ってたし。今の俺は『阿部屋 茂松』なので、中村という名前で呼ばれることはないはずだ。
「あっ。今は中村さんじゃねえや。えーっと……。名前何だっけ……。田中さーん! こっちです! こっちこっち!」
田中じゃねえよ! 阿部屋だよ! 俺はくらげの声のした方向を振り向くと、そこにあったのは独りでに動く西洋甲冑鎧だった。
「ピイィイイィィイ!!?」
「うわあああ!?」
「中村さん! 何で鳥の鳴き声みたいな悲鳴上げるんですか!? この子陽太君ですよ!」
「え!? 陽太くん、何でここに……。」
ほ、本当にお化け出たかと思った……。陽太君でよかった……。というか、俺あんな声出るのかよ……。
「中村さん、驚かせてしまってごめんなさい。」
陽太君がシュンと落ち込みながら俺に謝ってくる。うっ、しばらくマシロのアホに付き合わされてきたからこの素直さが眩しい。
「いや、陽太君が悪いわけじゃないよ。こちらこそ驚いてごめんね。」
「いえいえ、僕が急に中村さんの後ろにいたのが悪いんです。」
「ううっ。何て謙虚な人たちなのかしら……。ほろり。」
そういやくらげはどこにいるんだろう。さっきから声は聞こえてくるんだけど、姿は見えない。俺がキョロキョロとくらげを探していると、陽太君が小さい子どもが砂場遊びで使っているようなバケツを持っていることに気が付く。
「ねえ、陽太君。そのバケツは?」
「……えっと、これはくらげさんです……。」
「え。」
「どうもどうも。直接会うのは2週間ぶりですね。中村さん。」
子供用バケツの中からピンク色の丸っこいスライムが小さい手をこちらに振っていた。
「くらげさんがゼリーみたいになってる!」
「バケツゼリー……。言われてみれば確かにゼリーに似てますね。色的にイチゴ味かな。」
「やめて! 食べないで! 私美味しくないです! 変な味するので食べないでください!」
「いや、そんなに必死にならなくても僕は食べないです。」
「はっ! すみません。陽太君と中村さんはシャベルピンク色のゼリーを食べないのは分かってるんです……。でもうちの社員の中には何でも口に入れる馬鹿が多数いるので、つい反射的に言ってしまいました……。」
「その人は赤ちゃんなの?」
「何言ってるんですか中村さん。人間の赤ちゃんよりもはるかに性質悪いですよ……。ううっ。」
くらげの目のような部分から涙が出ているような気がする。この人(?)は本当に普段からろくでもない人の相手をしているらしい。そのストレスで人形しゃぶったりしてるのかな……。だとしたらくらげが可哀そうに思えてきたぞ。
「そういえば、くらげさんは何でその姿になってるんですか?」
「なんかこの姿だとこの学園の結界が反応しないみたいなんですよねえ。流石ママです。」
くらげは丸っこいプルプルの体でえっへん! と言わんばかりに胸を張り、手を腰に当てているような動きをした。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「それにしても、どうしてこの学校に来たんですか? なにか緊急事態でも起こったんですか?」
「あっ。そうだった。中村さん! キュムちゃんを見てないですか!?」
「ごめん、陽太君。キュムちゃんって誰?」
「すみません、説明忘れてました。キュムちゃんってのはあの白くて小っちゃい可愛いマスコットキャラクターみたいな生き物がいましたよね? その子の名前です。」
へー。俺が学校で調査している間にあの白い生き物に名前つけたんだ。確かにあの子、キューキュムご機嫌に鳴いているけれども。
「キュムちゃん、いつもはご飯の時間になったら、絶対に食卓に来てるんですけど、今日は夕飯の時間を一時間過ぎても全然戻ってこなくって、心配になって探しに来たんです。」
「ママはこんなこと滅多にしないんですよ! これは絶対なんかヤバいことが起こる前触れです!」
くらげが丸っこいプルプルの体をビヨンビヨン縦左右に動かしながら俺と陽太君に訴えかける。なんかその動き可愛いな。
あの白い生き物、キュムちゃんを昔から知っているのであろうくらげがそう言うのなら、それは本当にマズイことなのだろう。
……あれ。そういえばヒダカはキュムちゃんのこと結構大事にしてたよな。船の中にいた時、マシロがソファのクッションの下にいるキュムちゃんを押し潰してしまった時、真っ先にマシロを蹴って退かしたような奴が探しに来ないのはおかしい。
「あの、ヒダカはどうしたんですか? アイツなら真っ先に探しに行きますよね?」
「ええ、その通りですよ。ヒダカ君が真っ先に探しに行きましたよ。でもまだ戻ってこないんです。」
「ああ。そうなんですね。」
「私たちはヒダカ君に嫌われているので置いて行かれました。」
「ええ……。」
くらげはあの変態的行動的があるから嫌われてるのは分かるけど、陽太君のことも嫌ってるのかよ……。
「僕、ヒダカ君に何か嫌なことでもしたんですかね……?」
「いや、あれはただ単にヒダカ君自身が他人と仲良くできない面倒くさい性格してるだけです。それでもあのクズよりははるかにマシですけど。」
しょんぼりしながら呟く陽太君に対し、くらげは辛辣な言葉で陽太君を慰めた。それにしてもくらげのいうクズって誰の事だろう。俺の知ってる人かな?
「それよりも早くママを見つけましょうよー。ママがいないとWi-Fi繋がらないから漫画と動画見られないんですよ!」
ここ異世界なのにWi-Fi繋がってたのかよ! というかキュムちゃんWi-Fiルーターか何かなの? 俺はあの子の存在が分からないよ……。
「まあ、こんな夜も遅いのに帰ってこないのは心配ですよね。一緒に探が……。」
唐突に巨大な爆発音が鳴り響き、激しい閃光が俺たちを襲った。
「中村さん!」
俺は陽太君に咄嗟に腕を掴まれ、胸に抱き寄せ庇われる。その直後、物凄い爆風が俺たちを襲う。
「中村さん! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だよ……。」
「うわーん! バケツ溶けるかと思ったー!」
俺の懐にいるくらげが騒いでいる。バケツは別に溶けていない。陽太君に少しどいてもらって周りをよく見ると、周りは瓦礫だらけで先ほどまで俺たちがいた廊下は完全に崩壊しており、天井も崩れて黒い雲に覆われた空が見える。
「これは一体……。」
「あーあ。ヒダカ君、やっちまいましたねえ!」
くらげもひょこっと陽太君の陰から周りの様子を伺っている。え!? これヒダカがやったの!? アイツこんなに強かったの!? でもここまでやる必要ある!?
「うーん。でもヒダカ君。何でこんな大爆発起こしちゃったんでしょう。いくら短気なあの子でも流石にここまでのことは……。」
風で何かが飛ばされ、俺たちの近くに落ちる。それが何か分かった瞬間、俺は頭を抱え、陽太君は羞恥心で手で顔を覆い、くらげは叫び出した。
「うわああ!! エッチな本だー!」
「あああぁぁああぁーー!! 私のエロ本―!! 何でこんなところにあるんですかー!?」
「それお前のだったのかよ!!」
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