第15話 禁書事件 2/3
放課後の授業が終わった後、俺は生徒会室に向かった。はあ、めちゃくちゃ気が重い……。今からでも寮の部屋に帰ってベットでゴロゴロしたい……。この時間ならマシロは外で遊んでていないから休憩にはちょうどいい。どうせこんな時に限ってマシロが必ずなんかやらかすから無理だけどな!
ここら辺の装飾は無駄に豪華だな。きっと学園の権力者が使うからわざわざお金かけて豪華にしてるんだろうな。俺は憂鬱な気分になりながら3回ノックをすると、ドアの向こう側から「どうぞー。」という声が聞こえてくる。俺は名前を名乗ってから生徒会室のドアを開ける。
「阿部屋です……。失礼します……。」
「よく来たね。阿部屋 茂松君。」
生徒会室に入ると、そこには朝に会った短髪で真面目で厳格な雰囲気の風紀委員の人とボサボサ頭で目元が隠れて見えない人、柔らかい笑顔でこちらを見てくる人がいた。あの笑顔でこっちを見てくる人なんか腹に一物抱えてそうで怖いな。
「さあ、こちらに座ってくれ。」
「ああ、ありがとうございます……。」
ボサボサ頭の人に席を勧められ、俺はビクビクしながら席に座る。このボサボサ頭の人は気弱な人のようでお茶を出すとすぐにどこかに引っ込んで行ってしまった。あの人のあの感じはきっと陰キャだ。そうに違いない。
ずっとこっちを見て笑いかけている美形の人はたしか、入学式で見た生徒会長だったような……。何でこの人もいるんだろう。正直この人怖いから帰ってほしい。
「あの、風紀委員のナタリエルさん。俺を呼んだ理由は何ですか?」
「ああ、そうだったね。本題に入ろう。君は寮のベットの下に危険な書物がいつの間にか置かれているという噂は知っているかね?」
「ええ。噂だけで実際に見たことはないですが、知っています。」
「そうか。なら話は早い。君もその書物を置いて行っている犯人を捜して欲しいんだ。」
え、この人、何でそんなこと俺に頼むの? 一人じゃ調査しきれないから誰かに頼むということ自体は分かる。でも俺みたいな留学生に頼む理由がわからない。
「え、何で俺に頼むんですか?」
「それはそちらにいる生徒会長エリオット様からの推薦だ。」
風紀委員の人はどやーと誇らしげな顔で生徒会長を手で示した。
いや、何で? 一体俺に何があると言うんだ。生徒会長さんはコホンと一つ咳払いをすると、俺に向き直って話しかけてきた。
「ふふ、不思議で仕方ないという表情をしているね。」
「ええ。まあ……。」
今の俺、分厚い眼鏡かけてるから表情分かりづらいはずなんだけど、この人は何で俺の表情が分かるの? 口元?
「いや実はね。君がこの学校の図書館の禁書エリアに入ろうとするところを偶然見てしまってね。」
「え!? もしかして俺が犯人だと疑ってるんですか!?」
確かに禁書エリアにどうやって入ろうか悩んでいたけど、それはこの世界から脱出する方法を調べてたいからであって、決してそこの本を盗んで他人のベットの下に置いたりしていない。
「ああ。誤解しないでくれ。僕は君が犯人だとは思っていないよ。」
生徒会長は手を振りながら笑顔で言った。
「実は、そこにいる風紀委員のナタリエルがその被害に遭っていてね。その本がこの国では見たことのないものだったから、留学生の君を呼んだんだよ。」
「ああ、なるほど。俺にその本がどういったものか見てほしいと。」
「話が早くて助かるよ。」
ボサボサ頭の人が俺の前にその本を置いた。その本は黒い布に覆われており、本の表紙はよく見えない。
「ああ、危険なものだから見るときは十分注意するように。」
風紀委員の人が本にかかっている布を慎重に外す。その本の表紙が目に入った途端、俺は吹き出してしまった。
「ンぐふっ!」
それは肌色成分の多い男同士が絡み合っている。ようするにBLエロ本であった。しかも本のタイトル的に結構エグイ性癖本だ。なんだよ『俺は男子高校生を調教監禁して恋のキューピットになることにした。』って。この作者どんな性癖してるんだ! 絶対ヤバい奴だろ!
しかも表紙に書かれている男子高校生たち、なんか風紀委員と生徒会長に似ているような……。うん。考えないようにしよう。
「私の部屋のベットの下にこんなっ……こんな本が見つかったのだ!」
風紀委員の人が顔を真っ赤にし、机をドンッ! と叩きながら叫んだ。それは怒りからなのか恥ずかしさからなのか、もしくは両方かもしれない。どちらにせよこんなモデルが明らかに自分と知り合いのヤバいR18指定の本を見せられて正気でいられる方がおかしいと思う。
「それで阿部屋 茂松君、この本に見覚えはないかな?」
「ゴホッ、ゴホッ……ない、ですね……。」
「そうか……。では、次の本を。」
「まだあるんですか!?」
もうやめて! もうこの本のタイトルの時点でお腹いっぱいだよ!
俺の心の声は届くはずもなく、ボサボサ頭の人が俺の前に次々と本を置いていく。『天使を拾ったので飼育する。』、『限界教師を甘やかす』、『王子が可愛すぎるので自分好みに洗脳することにした。』などなど……。最初の本のタイトルのインパクトが強すぎたので、若干大人しくなって少しだけ安心した。いやこれ、タイトルと表紙の時点で結構ヤバそうな本だ。
「フーッ! フーッ!」
「ナタリエル、落ち着いて。机ごと本を破壊しようとするんじゃない。」
風紀委員の人の方を見ると、彼が大きなハンマーを振りかざそうとしていた。ボサボサ頭の人が必死にしがみついて止めている。どこからそのハンマー持ってきたの?
どうせだったら女の子のキャラクターのR18指定のエロ本だったらよかったのになあと思いつつ、あまり詳しく見たくないので出来るだけ目を薄めながら見ているとあることに気が付く。この本よく見たらすごい見覚えがあるぞ……? はっ、よく見たらこれは姉貴が好きなエロ作家の『ぷにばぶピンクバケツ』さんの絵じゃないか! いやー。懐かしいなー。たしか大学生の時、姉貴に付き合わされて行列に並んで買ったっけ……。周りのお姉さま方の目がすげえ怖かった記憶がある。
今まで見せられた本の作者名を見てみるとすべて同じ作者の名前だった。まさか俺と同じように地球の日本から来た人がこの学園にいるのか!?
……いや待て。もし本当に地球から来た人がいるとして、何でエロ本なんかばら撒いてるんだ? 目的が意味不明すぎる。
「阿部屋 茂松君、何か心当たりはあるのかい?」
「いやあ……ちょっと、何も、分かんない、ですねえ……。」
「ふうん? 本当に?」
生徒会長がニヤニヤと嫌な笑い方をしながら、俺の顔を覗き込もうとしてくる。この人、いつの間にこんな近くに来たんだよ。怖いな。
俺は彼からすすーっと後ろ足で離れようとすると、生徒会長がその分近づいてくる。辞めてくれ。
「まあ今のところはいいや。君もナタリエルと一緒に犯人探しをしてもらおう。」
「え。」
「茂松君! 学園の平和のために共に犯人を捕まえよう!」
「え?」
「ちなみに君に拒否権はないからね。」
「ええ!?」
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