第18話 棲み分けって大事だよね。
「うわあぁあぁあ!」
「くらげさん! なんで急にこんなことになってるんですか!?」
「ええっとお……。ええっとおぉ……。」
俺をおんぶしながらなんとかギリギリのところで瓦礫を避ける陽太君。バケツの中で溶けながらしどろもどろになっているくらげ。そのバケツを懐に抱えている俺。この状況意味わかんねえな。
「あー……。実はですねえ……。ヒダカ君、男同士の恋愛モノ……。主にR18指定のエロが駄目でえ……。それ見ちゃうと正気を失って暴れちゃうんですう……。」
「とんでもねえバーサーカーじゃねえか!」
「私だってママからBLのエロ本見せたらダメとは聞いていましたけど、ここまで酷いとは思いませんでしたよ! ハハハッ! それ描いたのが私だってバレたら殺されるじゃないですかあー! ヤダー! まだ死にたくないよー!」
「アレお前が描いたのかよ!」「アレ貴方が描いたんですか!?」
俺と陽太君のツッコミがハモった直後、俺のすぐ後ろをビームで狙撃される。ひいっ!? 地面が高温で抉れてる! あれに当たったら絶対死ぬじゃん! 他力本願で悪いけど、陽太君頑張って避けて!
陽太君が避けきれなかった瓦礫が俺に当たりそうになった瞬間、スパっと綺麗に瓦礫が切れた。
「君たち、大丈夫か?」
「ツルギさん! また助けてくれてありがとうございます!」
「え。誰ですか……?」
陽太君がツルギさんをじっと見ながら呟いた。あ、そうか。陽太君は彼の事知らないよな。
「この人はツルギさんっていう人で俺と同じ学校に通っている人だよ。」
「なるほど。なか」
俺は咄嗟に陽太君の口を塞ぐ。
「瓦礫が口に入ってない!? 大丈夫!?」
「うぇ? モガモガ? フガフガフガ?(え? 大丈夫ですよ? 急にどうしたんですか?)」
陽太君! 気が付いてくれ! 今は本名で呼ばれたらヤバいんだって!
「それにしても一体どうしてこのようなことに……。」
すみません。またうちのやつのせいです。とは言えず、ギュッと口を閉じる俺。
「拙者は他にも逃げ遅れた生徒たちを助けに行く。君たちはエリックの誘導に従って安全な場所まで逃げてくれ。」
そう言うとツルギさんは機敏に瓦礫を避けながら別の場所に向かっていった。
「陽太君……。この学校では中村っていう名前は呼ばないでね……。一応この学校では他の人がいる場合は阿部屋 茂松って呼んでね……。」
「あっ! すみません、気が付かなくて。」
俺をおぶさりながらペコペコと謝る陽太君。やっぱりいい子だよなあ。でもちょっと酔いそう。
「とにかく、何とかヒダカ君を止めないと……!」
くらげが指のような手をグーに丸めながら決意を固めた。そのタイプの手ってどうやって動かすんだろう……。
「ええ……。どうやってあの破壊兵器を止めるんですか?」
陽太君もついにヒダカのことを破壊兵器呼ばわりしてきた……。俺がいない間に何か思うことあったんだろうな。
「ママに止めてもらいます!」
「他力本願……。」
「あんな小っちゃい子に全てを任せるんですか……? それは流石にちょっと……。」
ドヤッと決め顔で情けないことを宣言するくらげに俺と陽太君は呆れてしまった。
「そんな目で見ないでくださいよお! ヒダカ君はママじゃないと制御できないんですよお!」
くらげが泣いてしまった。懐に抱えているバケツがガタガタ揺れていて抑えづらい。
「くらげさん、動かないでくださいねー。陽太君が大変になっちゃいますから。」
「う、ううっ。高校生と推しのサンドイッチ……。さながら私は薔薇に挟まれる女ってことか……。ちにたい。」
「中村さん。くらげさんは何言ってるんですか?」
「知らなくていいよ。」
コイツ、薄々そうなんじゃねえかとは思ってたけど、腐女子なのかよ……。妄想するのは相手に迷惑が掛からない範囲で好きにすればいいけど、身内の知り合いでカップリング妄想するのだけは辞めてくれ。気まずいから。
「え!? その機体は……!」
あ。エリックだ。彼はこの学校の制服を着ておらず、なんか……なんだろう、ロボットアニメで出てくるような軍服ッポイ服を着ている。この人、やっぱりこの世界の人じゃないよな。
「阿部屋君! その鎧はどこで手に入れたの!?」
「え。急に何ですかこの人……。」
詰め寄るエリックにドン引きしている陽太君。この人、こんな人だったっけ……? 本当のことを喋る訳にもいかないし、適当に誤魔化しておこう。
「エリックさん、貴方は言ってるんですか……?この人は俺の護衛の召喚獣のゴーレムですよ。緊急事態なので一人でに出てきてくれたんです。」
「え? そ、そうだったのかい……? とにかくここは危険だから学園の裏山に避難するんだ! 僕も学園関係者全員の非難が終わったら行くから先に行ってて!」
エリックは俺の言葉に納得すると、他の人たちの避難誘導に行ってしまった。
「中村さんって案外適当なこと言いますよね。」
くらげがジトーとした目で呆れたような目で言ってくる。そんな目で俺を見ないでくれ。
「やあ! 君たち! こんなところにいたら巻き込まれてしまうよ!」
「うわあ! 変な人がいる!」
「この人先生だよ!」
陽太君が変な踊りを踊りながら平然と話しかけてくるガーデニア先生を見て驚いていた。というかこの人、いつからいたの!? さっきの会話聞かれてないよな……。それにしてもよくそんな重そうなものを背負ってこんな瓦礫が降り注いでいる中踊れるよな……。
「ちょっ……! ガーデニア先生も避難してくださいよ!」
「生徒を置いて自分だけ逃げるわけにはいかないだろう!?」
とりあえずそのやたら全身をグネグネ動かす踊りはやめてください。
「ところで、その鎧君は誰かな!?」
「この人は俺の護衛の召喚獣の人です。俺のピンチなので出てきてくれました。」
「ど、どうも……。」
陽太君がガーデニア先生に引いているのか、いつもより挨拶が控えめだった。
「そんな強そうな護衛君がいるんだったら君たちは大丈夫そうだね! 私も生徒たちを避難させたら裏山に向かうよ!」
ガーデニア先生はクルクルと回る踊りをしながら、どこかに消えていった。心配して声掛けに来てくれたのかな……。
「ええ……。何ですかあの人……。」
「サンバ・ガーデニア先生っていう俺の担任の先生だよ。」
「ええっ!? あの変な人が!?」
「いや、一応いい先生だから……。変な人なのは否定しないけど。」
陽太君が驚いたのは分かるよ。あの人、いっつもいきなり現れてよく分からないダンス踊っていなくなるからな。意味わかんないよな。
「うーん……。さっきの人、どこかで見たことあるんですよねえ……。」
くらげがガーデニア先生が去った方向を見ながら何か唸っている。
「さっきの人ってガーデニア先生のことか? あんな園芸カーニバルのこと一度見たら忘れることあるか?」
「中村さん、意外と辛辣なこと言いますね……。」
「いや、そのあだ名付けたのマシロだからな。俺じゃない。」
陽太君とくらげが「なんだそっかあ。」と胸をなでおろした。俺にはそんなあだ名付けるセンスないからな!?
……それにしても、マシロのヤツ、どこに行ったんだ? アイツの事だから無事だとは思うけど、ちょっと不安になってくるな……。
「ん? あれ。あそこにいるの、さっきのサムライの人じゃないですか?」
陽太君の指さした方向を見ると高いところに確かにツルギさんと銀髪長髪の人がいた。何だろう。あの銀髪の人、どっかで見たような……。確か、エリックが持っていた写真にあんな感じの人がいなかっただろうか。でもここからじゃ破壊音と距離のせいで彼らの会話を聞くことはできないな。
それにしてもヒダカ暴れすぎだろ! この学校に一体何の恨みがあるんだ! くらげの言う通りならエロ本見ただけなんだろう!? ここまで見境なく暴れる必要ある!?
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