第7話 元の世界に帰るために 1/2

 自己紹介が終わると、これからどうするか話し合うために俺たちは元々座っていた席戻った。


「ええっと、中村さんと清宮さんでしたっけ……。」

「くらげさん、僕のことは陽太って呼んでもらえると嬉しいです!」

「ウワア……めっちゃいい子じゃないですかやだー……。」


 陽太君が笑顔で元気よくそう言うとくらげが両手を手で覆い、長い溜息を吐きながら呟く。

 俺も陽太君の明るさが眩しく感じるので、少しだけくらげの気持ちが分かった。コイツも陰の者だな。

 くらげが落ち着くと再び俺たちに向き直る。


「うーん……お二人に聞きたいんですけど、何歳ですか?」

「僕は15歳です!今年高校生になったばかりです!」

「若っ!?」


 俺の一回り以上年下じゃねえか!?


「中村さんは?」

「33歳です……。」

「おっさんじゃん。」


 マシロが左右非対称の座り心地のよさそうなソファにだらしなく座り、テレビにケーブルを繋いで遊ぶタイプの据え置き機の大乱闘対戦ゲームをやっており、興味がなさそうに答える。

 隣にヒダカも座って同じ対戦ゲームをやっていた。対戦相手は隣にいるマシロだろう。白い生き物は黒いロボットの頭の上でお腹を出してグースカとよだれを垂らしながら眠っている。お前らいつの間に移動してたの?


「あの子たちは別に放っといても大丈夫です。それよりもお二人がこの世界に来た経緯を教えてもらえませんか?まずは中村さんからお願いします。」


 くらげがマシロとヒダカを一瞬見を見てから、俺たちに向き直る。

 一呼吸置いた後、俺はこの世界に来た経緯をくらげに話した。


「ええ……それ不法侵入に誘拐ってそれ普通に犯罪じゃないですか……。」


 くらげが思いっきり顔を引きつらせ、俺の話を聞いている。この人、最初会った時にフィギュアしゃぶってたけど、こうして話してると一応常識はあって話はできるんだよな……。フィギュアしゃぶってたのに……。


「それで陽太君は何でこの世界に来たんです?」


 くらげが今度は陽太君の方に向き直る。陽太君は「ええっと……」と言い淀みがら少し考えるように顎に手を当てた。


「……僕、この世界に来る時の前の記憶ないんですよね。」

「ええ!?」


 俺は驚いて声を上げる。くらげは考え事をしているのか視線を逸したように見えた。


「気が付いたらこの世界にいたんです。この世界に来る前の家族や友達の事、住んでる場所とかは覚えてるんですけど、何でこの世界に来たのかは全く分からなくて……。」


 陽太君は涙を堪えながら答える。多分、この世界に来たばっかりの時のことを思い出しているのだろう。高校生になったばかりのまだまだ親の庇護が必要な15歳の子どもが人型昆虫に囲まれてマシロのせいでいきなり死にかけて、しかもこの世界に来て気持ち悪い体になっていたらそりゃあ泣きたくもなるだろう。三十路のおっさんの俺でも泣く。


 俺は席を立つと陽太君の頭を撫でた。こんなの、何の慰めにもなってないだろうけど何もしないのは嫌だった。


「な、中村さん……?」


 陽太君が驚いたようにこちらを見る。俺ははっとして陽太君の頭から手を離す。


「あ、もしかして知らないおっさんにいきなり頭触られて迷惑だったか!?気が付かなくてごめんな!」

「いえ、そうじゃないです! 僕、小さいころに両親が離婚して、母親と二人暮らしなんです。自分より年上の男の人に撫でられたことがなくてビックリしただけです……。」


 陽太君が俯きながら答える。


「そうなのか……。」


 俺の両親はたまに喧嘩していた時はあったけど、基本的に夫婦仲は良好だったから、離婚している家庭の子どもの気持ちと言うのは俺には分からない。


「もし、僕に父さんがいたらこんな感じだったのかな……。」


 陽太君がボソリと呟いた。

 陽太君と陽太君の両親の考えなんて俺には分からない。何を言えばいいのか分からず、俺は陽太君の背中を撫でる。昆虫の体の陽太君の背中はとても固かった。


「ありがとう……ございます。」


 陽太君は涙声のままだが、ぎこちない笑顔で笑ってくれた。うん、ゴキブリの顔じゃなかったらもっと輝いて見えたんだろうな。イケメンの陽キャだったら俺が溶けるだろうけど。


「お二人はこれからどうしたいですか?」


 くらげが俺たちに質問する。そんなの、答えはもう決まっている。


「俺は元の世界に帰りたいです。」

「僕も……元の世界に帰りたい。家族や友達に会いたい、こんな体のまま死ぬなんて嫌だ……!」

「そりゃそうですよね……。わかりました!それじゃあどうやって帰るのか考えましょうか。」


 くらげがそう言って俺たちを安心させるように微笑んだ。

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