第5話 ピンク色の変態
中腰のまま彼らについていくように船の入り口をくぐると、そこはまるでSF映画に出てきそうなくらいの近未来的な内装だった。壁一面は白で統一されており、床も白いタイル張りである。天井には船外活動用のライトのような物が付いており光っていた。
「すげぇ、SFっぽい。」
「旧文明人は大げさだね。」
マシロからの言葉に対し、若干イラつきを覚えたものの、今目の前にある物珍しい光景を目に焼き付けるべくキョロキョロと周りを見てるとどこかから人の声が聞こえてくる。
マシロが廊下に人型昆虫をドサッと雑に置き去りにするとそのまま前にスタスタと歩いていく。いつの間にか黒いロボットと白い生物もいない。
「おい、置いて行くなよ!お前が連れてきたんだろ!」
俺は急いで人型昆虫の傍に寄ると、「ううん……。」と苦しそうに呻いていた。俺に害虫耐性あるから意外と大丈夫だけど、ゴキブリの顔した人型の昆虫とか普通に気持ち悪いな……。
人型昆虫を肩に担いで部屋の中に運ぼうとしたが、想像以上にデカくて重かったので断念した。なんであの幼女肩に担いで凄まじいスピードで移動できたの?よく見たこの人型昆虫黒いロボットと同じくらいの大きさあるじゃん。2.5~3mはあるんじゃないか? ほんとよく運んでこれたな。
どうやって部屋に運ぼうか考えていると、どこかの部屋から人の声が聞こえてくる。もしかしたら、誰かいるのかもしれない。その人に助けを求めるべく、俺は人型甲虫の頭をそっと床に寝かせ、声がした方向に向かった。
人の声が聞こえた部屋の前に着くと音もなくスライド式で扉がひとりでに開く。どうやら自動ドアらしい。そこにはピンク髪のショートボブの女性が机に向かってブツブツと呟いていた。
「Oh、大葉ァ……。おさげ三つ編みカワイイカワイイネエ……。スゥーハァー、スゥーハァー……まつ毛モグモグしたいぃンゴ……あっ、目が合っちゃった♡僕たち両思いだンゴ!アアアアんんンンんー!モグモグしよっ。モグモグペロペロモグモグペロペロモグモグペロペロ……」
俺はさっと素早く後ろに下がって移動し、自動ドアがそっと閉じられた。俺は何も見ていない。ブツブツと興奮した口調と血走った目で女の子のフィギュアをしゃぶっているピンク髪ショートボブの女の人なんて見ていない……!
俺が心の中で自分にそう言い聞かせながら扉を見ていると、突然後ろから膝に衝撃を受け、俺はとっさに反応できずに前から地面に倒れこんでしまい、自動ドアが俺を避けるように開く。
「うおあ!? 痛い……。」
立ち上がって前を見た時、血走った目で両手を片方ずつ2体のフィギュアを持ちでよだれを垂らしながらしゃぶろうとしているピンク髪の女性と目が合った。
「「うわああああ!!」」
俺の声と女性の声が同時に響き渡る。
「うわあああ!!知らない人がいるううう!!」
「くらげっちが社会的に死んだ!この人でなし!」
「いや、俺は何も見てないぞ!」
「嘘だ!」
俺は現実から目を逸らすようにピンク髪の女性から目を逸らすが、ピンク髪の女性が涙目でプルプルとしながらこちらを見てくるのが分かる。
「え?くらげっちが『Oh、大葉ァ』って言ってたところから見てたよね?」
「やっぱり見てるんじゃないですか!」
「お前どこから見てたの!?」
「お前の後ろだぜ。ちなみにおれは『ハアァー……もうマジ無理、推しの栄養補給しよっ。』のところから見てた。」
「俺の後ろにいたのお前!?」
「アンタ何で全部見てるんですか! その人の後ろにいたのにどうやって分かったんですか!?」
「自動ドア越しに聞こえてたよ。」
「うっ、これだからコイツをおいとくのは嫌だったんです……! それをあのクズが試験運用だなんや言ってくるから……!」
マシロとピンク髪の女性ピンクの女性が言い争いをしていると、廊下に置いてきてしまった人型昆虫君のことを思い出す。
そうだった! あの子の治療のためにこの部屋に来たんだった!
俺はいつの間に地面に倒れている俺の背中に乗っているマシロに「ねえ、人型昆虫君は……?」と声をかける。
というかマシロはいつの間に俺の肩に立ってるんだよ。どんなバランス神経してるんだコイツ。マシロの足が地味に肩に突き刺さって痛いから早くどいてほしい。
「え、廊下に落ちてたから今はおれの部屋で血抜きのために天井から吊るしてるけど。」
マシロは何でもないことのようにあっさりとした口調で言った。
「「何してんだお前!!」」
ピンク髪の女性がフィギュアを懐に終い、俺の横を通り抜けていくのと俺は急いで立ち上がるのはほぼ同時だった。ピンク髪の人、行動速くない?
「さて、おれはゲームでもしてるかな。」
「お前も行くんだよ!」
俺はマシロを叱りつけ、肩に立ったままのマシロの足を掴んで、慌ててピンク髪の女性を追いかける。頭の上から小さく舌打ちの音が聞こえた。こ、コイツ絶対反省してねえ……!
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