第4話 秘密基地到着

 無限にも思える長い時間が経つ。相変わらず顔に強い風が当たるが、何故か普通に呼吸ができる。台風で強風が正面から来た時、呼吸が出来なかったから、これはおかしいと思う。やっぱり異世界だから、物理法則が違ったりしているのだろうか? それとも魔法を使っている?


 俺が考え事をしている間に目的地に着いたのか、黒いロボットから地面に着地するような音が聞こえてくる。ふわっと体が浮いたような感覚がなくなると同時に黒いロボットが俺の脇から手を離す。


「痛っ!?」


 パッといきなり手を離されたので、身長差がある俺は地面に落ち、尻もちをつく。


「おいおい、もうちょい優しく下ろしてくれよ……。」


 俺が振り返りながら黒いロボットに文句を言うと、黒いロボットはすぐに俺から視線を背ける。なんだコイツ。めっちゃ態度悪いな。


 黒いロボットの態度に若干ムカつきながら周りをキョロキョロと観察すると、マシロが人型の昆虫を顔面から地面に叩きつけていた。

 人型昆虫は「ふべっ!?」と間抜けな悲鳴を上げた。ごめんロボット、君の方がまだ優しかったよ。

 ……待って。お前黒いロボットのあのスピードについてこられたの? え? ……え?


「キュキュイー……。」


 俺が戸惑っていると、白い生き物は「何やってんの……?」と言わんばかりの批判するような表情でマシロを見る。え、もしかしてこれがこの世界の常識だったりするの?

 彼女は特に気にした様子は無い。むしろ昆虫の上に載って両手を上げ、王が民衆から称賛を浴びるように手を振っている。コイツ何なん?


「それでここはどこなんだ?」


 俺が黒いロボットに聞くと、マシロが答える。


「ここは秘密基地だよ。バラしたら殺されるからね。」

「怖っ。」


 マシロからの返答に反射的に反応してしまったが、俺は黒いロボットに聞いたつもりだったのに何でお前が答えるの?

 若干何とも言えない気持ちになりながら辺りを見渡すと、先ほどまではなかったはずの巨大な船のような建築物が目の前にあった。


「え?いつの間にこんな建物が?」

「元からここにあった。シャッチョのおかげで見えるようになっただけ。」

「キュキューイ!」


 マシロと白い生き物が人型昆虫の上で踊りながら答える。どっちも辞めてやれよ。人型昆虫君が可哀そうだろ。


 黒いロボットが人型昆虫君に近づき、彼の背中からマシロと一緒に踊っている白い生き物を優しく手に乗せると、船に向かう。白い生き物は若干不満そうに頬をぷくーっと膨らませていた。

 白い生き物を載せていない方の手で船に触ると何か操作すると光る操作盤のようなものが現れる。彼は手際よく操作すると壁から入り口が現れた。


「うおー、すげー。近未来的だあ。」


 俺が感心するように呟くと後ろから人型昆虫の寮足を掴んでズルズルと運んできたマシロが「ふっ……。」とこちらを見下したような目でこちらを見てくる。コイツいちいちムカつくな。

 あと、人型昆虫君のその運び方は辞めてやれよ。頭で地面掘っちゃうだろ。

 マシロの体格的に仕方ない部分もあるかと自分を納得させながら、後ろから昆虫の頭を持ち上げ、地面に直接つかないようにする。

 うっ、意外と重いうえに中腰で移動するからめっちゃキツイ。コイツ、なんでこんな平然と引きずって運べるの?


「え。何してるの?おれが可愛いからストーカーしてるの?」

「違うよ。このままだと人型昆虫君の頭が大変なことになっちゃうだろ。」

「どうせ食べるんだから、あってもなくても変わらなくない?」

「まだ食うことを諦めてなかったのかよ!? そもそもこの人型昆虫君に人の意識あるって聞いたよね!?」

「人の意識あると何か問題でもあるの?」


 この子はやっぱりサイコパスなのかもしれない……。俺は深いため息をついてから彼女に向き直る。


「人型昆虫君がこの世界でどういう存在なのかは知らないけどさ……。何も悪いことをしてない人にこんな酷いことをしたら駄目だよ。」

「何で?」

「人は誰に対しても無差別に攻撃してたら、『この人は危険人物だ!』って考えるんだよ。そんでもって人って自分に対して酷いことをした人にはどこまでも残酷になれる生き物だからね。自分自身の身を守るために、むやみやたらに攻撃したら駄目だよ。」


 マシロは「ふーん」と呟きながらよくわかっていなさそうな表情をしている。4,5歳に対する答えじゃなかったかな……。小さい子どもの教育なんかやったことがないから、こんな拙い説明でいいのか俺には分からなかった。

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