第2話 夕闇の出会い2

突然の侵入者に対して、僕は律儀に挨拶をする。



「えっと……こんにちは。君は誰?……これって、僕の夢?……僕はさっきまでしっかり目を覚ましていた気がしたけど……違ったのかな」



お尻のあたりをさすりながら立ち上がった彼女は、僕の方を見た。




変わった瞳の色。


濃い青と濃い紫と濃い緑が混じり合った中に、煌めく三つの光が射している。


まるで水晶玉の中に宇宙を閉じ込めたかのような……不思議な瞳だ。ずっと見ていると吸い込まれそうな、そんな目をしている。



「……多分あなたはしっかり覚醒してるわ。夢じゃなく、これは現実。


というわけで……はじめまして。私は火置ユウ。ところでここはどこかしら?ごめんね、驚かせて。まさか時空の穴がいきなりこんなところに繋がるなんて思わなくて」




「……ごめん、色々わからなくなってきたな……。まず、何だっけ?君は『火置ユウ』?」



僕は頭を抱えて尋ねる。


僕は頭を抱えて尋ねる。……生まれて初めて聞いた単語『時空の穴』については、一旦スルーすることにして。



「あら、一度にたくさん喋りすぎた?

そう、私は火置ユウ。多分…21歳。久しぶりにこの世界に戻ってきたんだけど、戻って来る場所を失敗しちゃったみたい。

たまにあるのよね……こういうことが。まあそれはいいか」



………多分21歳?この世界が久しぶり?……ちょっと、まだ混乱してる。まともに考えることができない。


それにしても『この世界』って……まるで他にも世界があるような口ぶりだな?

彼女の言う『世界』って、『国』みたいなことかな?……久しぶりに日本に帰国した……みたいな。

大分無理やりな帰国方法を選んだみたいだけど……。



「…………大丈夫?」


彼女が心配そうに……ちょっと怪訝そうに、俯いた僕の顔を覗き込む。

果たして大丈夫……なのかな?大丈夫ではないのかもしれない。



……どうしたのかな、僕。昨日頭でも打ったっけ?……そんな記憶はないけれど。


それとも、毎日何の刺激もない場所にずっといると、徐々に精神がおかしくなってしまうんだろうか?

目の前の彼女は、頭のおかしくなった僕が作り出した幻想なのかも……。



でも……思えば僕は、刑務所に入る前も刑務所の中と大して変わらない生活を送っていた気がする。


誰とも喋らず、朝のランニングをして、決まった時間に食事を取って、ぼんやりと空想して、気の済むまで読書をして一日を終える。


ほら、今の生活とそんなに変わらない。最近は刑務所生活にも馴染んでいたし、おかしくなる理由なんて何一つないと思うんだけどな。



……それとも、深層心理では違ったってこと?

実は僕はこの刑務所生活によってストレス値が限界を超えていて、幻覚を見るほど精神に異常をきたしていたとか……。なわけないか。



「…………えっと、まだ混乱してるんだ。ちょっと情報を整理させて。

とりあえず今は、新しい情報は出さないでほしい。そしてできれば、僕の質問に一つずつ答えてほしい」


「……わかった。あなた……のんびり喋る割に、すごくはっきり物を言うのね」


「そう?……まぁ、そう言われることもあるかも。オブラートに包まないタイプだねって。

…………で、えっと、これは僕の夢じゃないんだよね?……君に聞くのも変だけど」


「夢じゃないよ。だって私は現実だから。私は、時空の魔女。魔法使いなの」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る