第15話 2日目の朝 灰谷ヤミの目覚め1

~灰谷ヤミの死刑まで残り24日~




刑務所の朝は早い。6時には点呼が始まって、7時30分には朝食が運ばれてくる。消灯時間も21時と早いから、朝は何の苦も無く目覚めることができる。



こんな規則正しい生活を続けていたら、多分長生きができるだろう。死刑囚にこんな健康生活を強いるなんて、皮肉な話だと思う。



……といっても、看守によって点呼が行われていたのはこの棟に移されるまでの話だ。





この『特別棟』に移されてからというもの、なんと看守の『点呼』がなくなった。今では7時30分の朝食が、僕の目覚まし代わりになっている。




7時30分になると、独房の扉がゆっくりと三回ノックされた後、扉の下に設置されたスライド式の小窓から朝食のトレーが渡される。



部屋の扉が開けられることはなく、僕は看守と顔を合わせない。食事が終わった後も、トレーを小窓から出しておけば、いつの間にか回収されている。



彼らはこの部屋の中の様子を確認しなくていいんだろうか。

だって、僕が味噌汁に顔をつっこんで溺死していたらどうするの?そんなことになってしまったら、看守は責任を問われないんだろうか?おせっかいにも心配してしまう。




そういえば…この棟に移される直前、別の囚人からこんなことを言われたのを思い出す。




「お前が明日行く棟って……あれだろ。『カミサマ』が自ら管理してるっていう特別棟。

あそこに行ったやつは絶対にこっちに戻ってこられない。家族との面会だってできなくなるし、部屋の外に一歩も出してもらえないって噂だ。……あそこに行ったら最後、頭が狂って死ぬまで部屋に閉じ込められるらしいぜ……。


……あ、お前はどっちにしろ死刑だから帰る予定はないんだったか!それじゃあ、あんまり関係のない話だったな!悪い悪い!」




……もしかしてあの噂は本当だったんだろうか?でも、僕は部屋から出られなくても狂わないよ。


大体もうじき死刑になるのに、今から狂うのはちょっと遅すぎやしないか。もっと早くに狂っていたら、もう少し楽に人生を終えられたかもしれないのに。





「おはよう。……よく眠れた?」



朝から考え事の海の中を漂っていた僕の耳に入ってくる、クリアなアルトの声。


そうだ。僕は今、一人じゃないんだった。えっと……そうだ、火置さん。火置ユウとの共同生活が始まったんだった。




火置ユウ。21歳。黒髪の魔法使い。この広い宇宙でたった一人の、時空の魔女。


「……おはよう。ごめん、ボーッとしてたよ。一人じゃないってことを、すっかり忘れてた」

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