第11話 出会いの日の夜3

「死ぬ前に話し相手が来てくれてよかった。最後にいい思い出が作れそうだよ」



彼女は返事をしない。


……彼女にとっては、迷惑な話なのかもしれない。初対面の相手が殺人犯だと聞かされて、しかも知り合いになったと思ったらもうすぐ死刑になるだなんて。


……普通に考えたらちょっと衝撃的だよね。……まぁ、『世界を救う魔法使い』とどっちが衝撃的かはわからないけど。





「…………死ぬのは嫌じゃない?」


「え?」



少しの沈黙を破って、彼女が僕に尋ねた。


『死ぬのが嫌』?考えたこともなかった。僕には『死にたくても死ねない理由』があったから……むしろ死刑になったのはまたとない機会だと思っていたんだ。



「さっき話したとおり、僕は自分の悲劇的な人生に疲れているんだ。そのことによって僕には、物心ついたときから慢性的な自殺願望があったんだよ。だからむしろ、やっと願いが叶うって感じだよ」


「……せっかく自殺をせずにここまで来たのに?」


「自殺をしなかったのには理由があるんだ。……話すと長くなるから、それはまた明日にするよ」


「なんか、あなたって色々なことを難しく考える人なのね」


「……そうなのかな。あまり人と喋らないから、人と比べてどういった思考回路をしているかとか、考えたことがなかったかもしれない。僕よりも人付き合いの多そうな君がそう思うなら、そうなのかもね」


「……ま、何も考えない人よりは好感が持てるよ」


「ははは、君はよく僕のことを褒めてくれるな。嬉しいよ」


「……どういたしまして。…………そろそろ眠くなってきたから、寝るね。おやすみ」


「うん、おやすみ」



控え目な寝返りと衣擦れの音が続いていたのは多分5分ほど。その後程なくして、彼女の寝息が聞こえてきた。



その穏やかな寝息を聞きながら目を閉じると、なぜだか僕は無性に懐かしさを感じた。

『懐かしい』とはいっても、具体的な記憶の内容は思い出せない。でも、温かい安心できる何かに守られているような感覚がある。



これはなんだったっけ……幼い頃の記憶を辿ってみる。


これじゃない、あれじゃないと記憶を呼び起こしているうちに、僕は深い眠りについていた。

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