第8話 火置ユウ3

僕の自己紹介をしていたあたりから思っていたけど、火置さんは物怖じしない言動の割に繊細な雰囲気がある。案外色々なことを考えて感じ取って、傷ついているのかもしれない。……どうだろう、考えすぎかな。



「まあ、報酬目的でトラブル解決のお手伝いをすることはあるけどね。私にも生活があるからさ」


「……君はそうやって生きてるんだ」


「そう。私は、全時空において唯一のひずみ修復の専門家であり、トラブル解決もこなす何でも屋の魔法使いってところかな」


「……は、はは……すごいな……。もっと、君の話を聞きたいよ!」


「え、もういいよ。魔法使いとしての私の仕事について、話すべきことはこれで全部だと思う。……そろそろ疲れたから終わりにしていい?」


彼女は心底疲れた様子で床に座り込んだ。体育座りをした膝の上に頬杖を付いて、その深い色をした瞳で僕を見る。



「…………女の子ってお喋りが好きだと思ってたんだけど、違ったの?」


「……嫌いじゃないけど。でも私は、『自分自身の話』は不得意だし、そもそも何らかのテーマがないとうまく喋れない」


「……テーマトークってこと?……井戸端会議みたいなことはしないの?」


「あまり得意じゃない。今日はいい天気ね、みたいな話は。次に何を言ったらいいかわからなくなる」


「……コミュニケーションが下手なんだね」


「うわ、うるさいな!」


少し大袈裟なリアクションを取りながら、彼女は答える。

最初はクールな雰囲気を感じていたんだけど……どうやら一概にそうというわけでもないらしい。


「……でも、あんまりコミュニケーション下手には思えないけどね」


「…………人に寄るのかもしれないわ。よかったよ。会話の波長が合う人で」


「……そうだね、よかった。これからよろしくね」


「うん、よろしくね」


火置さんは床から立ち上がり、僕が腰掛けるベッドへと歩いてきた。そして笑顔で右手を伸ばす。


「握手」


火置さんの右手には、人差し指と薬指にシンプルなデザインの指輪がはめられている。彼女の白い手に、優しい色合いのゴールドが馴染んで鈍く光っていた。


僕は少しだけ迷ってから、自分の右手を彼女に差し出す。

女性に触れるのがとても久しぶりで、ちょっとした気恥ずかしさを感じつつ。でもそれを悟らせないように、静かに。



触れた彼女の手は、とても柔らかくしっとりしていた。



なぜだか僕は、ほんの少しだけ胸の痛みと……息苦しさを覚えたのだった。

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