火置ユウ2

「ちなみに……」


「ん?」


「……『時空』やら『魔法』やらって、知らない僕がおかしいの?他の人達は、君の言う事を簡単に理解できるのかな?」


「いや、できないんじゃないかな?さっきも言ったけど、ここは魔法のない世界だから」



……少し安心する。そして、色々と割り切ったほうがいいかもしれないということに気づく。


彼女の発言にいちいち疑問をいだいてもしょうがないし、完全に理解することはできないだろう。

とりあえず、彼女の話を『ファンタジー』として楽しめばいい。そう、自分に言い聞かせる。



「『時空のひずみ』とやらをそのままにするとどうなるの?」


「その世界のバランスが崩れていく。例えば、目に見えて犯罪や戦争や狂った事件が増えるとか、災害が増えるとか、生態系が異常になるとか。


そして近い内に世界は消滅に向かう。今この瞬間も、いくつかの世界は消滅に向かっている。

だから世界が本当に消えてしまう前に、ひずみを直さなくちゃいけないの」


「……おとぎ話の世界だな」


「そうだね。私も最初はそう思った。でも、本当なの。しかも……自慢するわけじゃないけど、私は自分の意思で時空の通り道を作れる、全時空でもたった一人の魔法使いなの」


「……これまた……すごい話だね」


「ね、すごい話だよね。だって私がいないと世界が終わったりするんだから。…………責任重大よ。重圧に押し潰されそうで、ヤになっちゃう」


…………彼女がいないと世界が終わる?……全時空でたった一人の、選ばれた魔法使い……?


「……ってわけ。どう?おもしろかった?」


「…………まさか君の創作話じゃないよね?」


「失礼ね、嘘偽りない本当の話よ」


「…………宇宙の救世主様じゃないか、君は」


「うーん……救世主……、大きい視点で見たらそうとも言えるけど…。でも、私の認識はちょっと違うかなあ」

彼女は腕を組んで首をかしげる。


世界の消滅を魔法の力で食い止めるなんて……どう考えても救世主だと思うけど、何が違うって言うんだろう。


「例えば『ひずみ』が生じた影響で世界のバランスが崩れ、その世界に強大な『悪』が生まれたとする。その『悪』をやっつけるのは私の仕事ではないのよ。


『救世主』って、その世界から『悪』を討って光をもたらす勇者様みたいな人を言うんじゃない?私はどちらかと言うと、舞台裏で壊れた部分を修繕する『大道具さん』みたいな役割なのよ。舞台役者ではないの」


「えーっと……つまり、君の仕事はあくまでも『ひずみを直す』だけ。ひずみの影響による世界のトラブルにはノータッチ。そういうこと?」


「うん、基本はそういうこと。私がひずみを直した時点で、世界の消滅は回避できるからね。

そもそもその『悪』が本当にひずみの影響なのかも判断は難しいのよ。ひずみがなくたって……戦争や犯罪はなくならないからね」

彼女の瞳の色が、物憂げに陰る。

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