その後の世界 ある風景

 イタリア某所の海岸に、カメラが落ちている。打ち寄せる波に洗われ、貝殻とともに転がるカメラ。

 そのそばで、奇声を上げ、自分の髪を引きちぎり、血を吐く男がいる。男はアジア系で、腕に軍の刺青を彫っていた。男は怒鳴りながら、波を蹴散らして海に向かう。

 美しい海に赤い血を混ぜながら、男はやがて水に没し、消えた。

 波音だけが、取り残される。

 しばらくして、波打ち際のカメラを、長い指が拾い上げた。黒く濃い影が、ふたつ、砂に落ちる。

 レンズを、醜女が覗く。唇をそっとつり上げてほほ笑むと、彼女はカメラを、水平線に向かって投げた。

 カメラが、持ち主の後を追う。


 ただ、それだけ。

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