その後の世界 冴島時男の述懐

 ――自分達父子は軍人でした。だからそれなりの生き方をしただけです。

 ――使命と責務、誇り。それだけです。それ以上の理由は要りません。

 ――向こうの柵に、車が停まっているでしょう。あれはマスコミの車です。自分を盗撮しています。

 ――自分は聖域攻撃の際、潜入チームの進路をさえぎるおわりの巨人信徒を虐殺しました。それを糾弾しようとしているのです。今頃になって。

 ――誰かが焚きつけたのか、マスコミの中に信徒がいるのか。

 ――でも、どうでもいいです。あんなのはくだらない連中です。何よりみんな、あんなやつらの番組や新聞は見ません。

 ――政府や軍部が睨みを利かせていた時代には、そちら側に立っていた連中です。みんなそういうコウモリ野郎が嫌いなんです。自分もそうです。

 ――おわりの巨人信徒を見た時、腹が立ちました。やつらは女子供さえ無惨に拷問して殺したくせに、まるで非武装の高潔な抗議者のように腕を組んで行進した。

 ――自分や息子が、最も唾棄する態度です。だからトレーラーで踏み潰した時も、バトルライフルでなぎ倒した時も、罪悪感などなかった。

 ――……息子とは、あまり仲は良くありませんでした。自分が厳しすぎて、息子が優しすぎたためです。男手ひとつで……だから、神谷さんにも失礼な態度を取りました。罪悪感と言うなら、そっちです。今なら、息子の心が神谷さんとともにあったのが分かります。あの子の人生は、全うされていた。

 ――今は、こうして牧草を掻いています。金輪部隊の嵐が吹き荒れ、国中の土が血肉と火薬を吸いました。でも、この牧場の草はこんなにも青い。育てているトウモロコシも甘いです。地球の強かさと、残酷さを感じます。人の生死がどれほど積み重なっても、変わらないものがある。

 ――潜入チームと別れて、金輪部隊の中を単独で歩いて帰還した時、初めてぞっとしました。誰ひとり、生きていないと感じました。意志を失い、人間性を失い、なお銃を持って人を殺す。地獄があるとすれば、あんな空間だと思いました。

 ――あんなザマをさらしていた人々が、今、真っ当に生きているとは、信じられません。

 ――彼らは怖くないのでしょうか。自分が誰を、何人殺したか、分からないなんて。

 ――息子も確かにブラインドマンでした。しかしすべてを承知して、覚悟をもって戦闘人形になったはずです。

 ――金輪部隊に覚悟があったとは、軍人として、信じられません。

 ――我々の覚悟と並べて語ってほしくない。

 ――だから、本当は、あの柵に停まっている車が、目障り極まりないのです。

 ――……楽しみなことがひとつあります。この牧場に、みんなを招待しているんです。潜入チームのみんなや、雪村さんや、熊沢さん達も。はでなパーティーじゃありません。馬に乗って、羊をさわって、トウモロコシを焼いて食います。

 ――地下にもぐった朝倉さんも呼びたい。火麻谷の兄妹は連絡がつきませんが。

 ――我々にしか分からないことがあります。それを確かめ合うのが、余生の楽しみです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る