最後の会話

 ――元気そうで何よりだ。

 ――うん。まあ、いろいろ大変だけど。

 ――……仕事は何を?

 ――カフェの女給。就職が決まってた会社が無くなっちゃったから……。

 ――ああ……。

 ――……。

 ――……。

 ――それで……えっと……。

 ――……。

 ――……私達って、その、どうなるのかな。関係というか、続柄? 曾姪孫そうてっそんとか玄姪孫げんてっそんとか、そういう感じになるのかな、私。

 ――そんなところだな。俺の姉の、子孫だ。君は。

 ――……変な感じ。目の前にご先祖さまがいる。

 ――……。

 ――ずっと、守ってくれてたんだよね。

 ――……。

 ――人質の自覚なんてなかった。右園死児報告を読める立場じゃなかったし、ほんとに、何も知らなかった。

 ――俺も……牧野周平に聞かされるまで、君の存在を、知らなかった。

 ――なんで牧野は、私を持ち出したのかな。あなたに右園宮を調査させたかったからって、なんで私?

 ――きっと、他に脅しの材料が無かったからだろう。君と俺が、神谷家の最後の生き残りだ。

 ――……やんなっちゃうな。養子にもらわれて、やっと新しい家に慣れてたのに。昔の家の話が、後からついてくるんだもの。

 ――……その、養い親の人達は。

 ――死んだよ。金輪部隊に入ったみたい。馬鹿よね。

 ――……。

 ――金輪部隊ってさ……大人用の服しか、無かったんだって。小さな子供とか抱えてる人、絶対入れないよね。……入ったのかな。子供を置いて。

 ――……。

 ――私、思うんだよね。エツランシャは、人類をなんだか、白々しいものに変えちゃったなって。

 ――白々しい……?

 ――この街で、毎日すれ違って、話して、笑い合う人達がさ。もしかしたら、あの時自分を追っかけた、金輪部隊だったかもって……そんな想像を、必死にごまかして生きてる。そんな人ばっかり。

 ――……。

 ――白々しいよ。すごく。

 ――……。

 ――ねえ。なんで……なんで、守ってくれたの? 私達、今日が初対面じゃない。神谷早苗さなえなんて、知らないって、牧野に言ってもよかったのに。

 ――……。

 ――怖い目にあったんでしょ。痛い思いしたんでしょ。どうして? なぜ?

 ――…………分からない。

 ――えっ。

 ――分からないんだ。ただ……足音に取り憑かれてから、人里を捨てて……それから一度も会わずに別れた、姉の顔が……なぜか、頭に浮かんで……。

 ――……。

 ――姉に、頼まれた気がした。君を見捨てないでくれと。

 ――そんなの……。

 ――……白々しいかな?

 ――……。

 ――……。

 ――……ううん。白々しくない。白々しくないってことに、しといてあげる。

 ――……。

 ――ありがとう。おじさん。

 ――どういたしまして。

 ――……さあっ! これから大変だぞ! 白々しい世の中でちゃんと生きてかなきゃいけないんだから! 私は当面一人暮らしのカフェの女給だけど、あなたはどうするの?

 ――俺は、今までやってきたことを続けるだけさ。

 ――それって右園死児報告? やめなよー、もう十分働いたじゃん。

 ――君が生きるこの国を、ほっとくわけにもいくまいよ。せっかく知り合った仲間達もいる。もうしばらくは、右園の姫君の加護に浴するさ。

 ――生きられるだけ生きて、戦えるだけ戦うのね。じゃ、たまにご飯食べに来なよ。帰る家、ほしいでしょ。守ってくれたお礼。

 ――そいつはありがたい。

 ――それと。

 ――ん?

 ――あなたのそばにいても、足音なんか聞こえないわよ。

 ――……ああ。気づいてたよ。

 ――ならいいの。ねっ、何か食べに行こうよ。霧雨戦闘機の座席に座れるレストランがあるんだって。

 ――あいつ、今そんな店やってるのか。軍の持ち物だろうに……。

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