その後の世界 戸島六郎と調査班夜烏の説明

 ――しっかり留め具をはめてください。防護スーツはあなたを守る唯一の『壁』です。聖域攻撃の際に発見された右園死児同士の中和性質を利用したもので、最低レベルの災害誘引物の至近にさらした素材を外装に採用しています。少なくとも八割がたの即死事故は回避できます。

 ――取り扱いは、放射線防護服と同様です。隙間を作らない。除染シャワーを浴びる前に脱がない。外装に触れた指で顔や目をぬぐわない。この施設においては厳守してください。違反が発覚すると六〇日間人権を剥奪されます。その間の生存は保障できません。

 ――床にはめ込まれた青いブロックを踏んでください。これが我々に許された移動範囲です。収容されている右園死児や関連物を検査する時もこの範囲を外れることはありません。

 ――特殊な許可を与えられた技術者は別です。しかし彼らは事故死を前提に働いています。ここでは多くのものが保障されません。

 ――牧野周平のギャラリーは、新たな右園死児収容所としては最適でした。水面下にあり、広く、電気回線や空調設備が充実していて、出入り口が限られている。何かあったら即時すべてを土の中に葬り去れる。

 ――我々調査班の、基地でもあります。我々はこの場所から右園死児研究対策を進めていく。今まで通り、ひとりひとり、呪い殺されながら。

 ――気がかりなことは多いです。エツランシャによって、我が国の右園死児管理システムは、一度完全に破壊されてしまいました。そのために国内の右園死児存在は、以前よりも増加していると考えられます。かつての政府軍部の在り方は非人道的ではありましたが、右園死児の発生を抑えるためには必要なことでもありました。

 ――金輪部隊に志願するような人々が、右園死児の製造を自粛するとは思えません。

 ――暫定国軍の雪村瞳副長官は、国民の恐怖になろうとしています。我々は彼女を支持します。彼女はかつての政府軍部が担っていた仕事を引き受けてくれている。

 ――愚か者どもが、右園死児を乱造し、国を破壊するのを抑えてくれている。残酷で容赦のない摘発と、懲罰をもって。

 ――でも、本当はそういうことは、国がしなければならないのです。熊沢慎太郎氏には邁進を期待します。あの人は多くの国民にとって、抵抗と再建の象徴のようですから。

 ――最近酒と煙草が増えているのが、気がかりですがね。

 ――右園死児との戦いに、勝てるか、ですか?

 ――それはね、病に対するように、ですよ。

 ――勝てようと勝てまいと、やるしかないんです。

 ――戦う者だけが、人間として、残存できます。

 ――それだけが、我々の信仰です。依然、変わりなく。

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