戦況一三時四〇分

 非常階段エリアに移動、登り切ると、空中電波塔アンテナ部分に到達。金輪部隊の増設した舞台に続く鉄骨階段を発見、登り始める。風は無く、空は晴れている。地上に墜落した戦闘機群を視認。霧雨のシンボルマークが見えるが、敵機はすべて撃破した模様。

 かなたの空に、色とりどりの風船が浮かんでいる。軍キャンプの人々が上げる支援目的浮遊体。一般的なゴム風船の到達可能高度は地上八〇〇〇メートル。そのエリアを、飛ぶ脳髄が悪い夢のように飛び交っている。

 装備に関して。神谷修二、ブラインドマン橋田四郎が、弾切れのアサルトライフルにレストラン内の各種包丁をダクトテープで留めた銃剣を携帯。小向夜子は、殺虫剤とライターを組み合わせた簡易火炎放射器を携帯。大西真由美と売春婦は武器を拒否した。歩く遺体はチームの最後尾をついて来る。

 チームは、鉄骨階段を約三〇分で踏破。エツランシャの舞台に到達した。青空と五〇〇トンの鉄骨の世界に、エツランシャと神像だけがいた。カメラに映っていた金輪部隊の死体は、投棄されたのか朽ち果てたのか、跡形も無かった。

 エツランシャ。青く白く透き通った循環器の塊。脳だけが赤黒く、はっきりと色を持っている。神像は、まるで生き物だ。組み込まれた右園死児が激しくもがき、泣き叫んでいる。だがけっしてそれぞれが分離、独立しない。舞台の中央で一塊になり、柱のように屹立している。

 鉄骨の上にたたずんでいたエツランシャは、ほのかに発光する眼球を転がして神谷達を見た。もはや人間の衣類を捨て去った循環器は、次の瞬間全身の血管を透明な血液で膨張させながら、人ならざる咆哮を上げ、走り出した。

 エツランシャとの距離、数メートル!

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