レストランでの会話

 ――ああ、缶詰のアスパラがこんなにおいしいとは思わなかったわ。最後の晩餐としちゃ上出来ね。

 ――またそういうこと言う。ウグラ1にも怒られたでしょ。非常時こそ言葉には気をつけろって。

 ――あんたが通訳しなきゃバレなかったのよ。そうそう、あいつがここにいれば少しはマシだったかもね。

 ――彼は外国の兵士だし、聖域適合性も無い。

 ――それよ。聖域適合性。そんなもんのせいであたしなんかが人類の未来背負わされて、女と老人と死体の混成チームでエツランシャに挑まなきゃいけないワケ。……勝てるわけないじゃん。もう弾もないし、三田倉九もどっか行っちゃったし。

 ――……。

 ――ねえ、マジで屋上に行くの? もうやめない? 殺されに行くようなもんでしょ。あたしの遺体だって、効くかわかんないしさ。そうだよ、アレが壊されたら終わりじゃん。嫌よあたしゃ、バケモノになぶり殺しなんてさ。

 ――逃げ場なんか無い。ここで勝たなきゃ、終わる。もう黙ってよ。

 ――……。

 ――……。

 ――俺が、殺る。

 ――……。

 ――俺が殺るよ。エツランシャを。

 ――……どうやって?

 ――何をしてでもだ。死力を尽くす。いつもそうしてきた。右園死児に立ち向かってきた人々は、いつも勝ち目の無い戦いに身を投じてきた。これはその歴史の、集大成なんだ。……君達は死ぬな。死ぬなら俺が死ぬ。俺がエツランシャを地獄に引きずり込む。

 ――そういう玉砕精神は、失敗しますよ。ご老人。たとえ子供を安心させるためでも、口にした言葉は力を持ちます。

 ――そうだろうか。

 ――そうでしょうとも。みんなで戦うんです。最後まで。そうすれば……ひとりぼっちのエツランシャに、勝てるかも。

 ――ひとりぼっち。

 ――そう、彼はひとりぼっちです。彼の孤独を感じる。この宇宙で彼のそばに立ち得るのは、私達だけなんです。

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