戦況一一時五〇分

 無人のエントランスから上階へ向かう。不自然に清潔。誰かが清掃した形跡がある。だが、非常階段付近から強烈な異臭。神谷がドアをこじ開けると、死体とゴミが非常階段エリアを埋め尽くしていた。死体は空中電波塔が占拠された際に殺害された、一般人と思われる。

 非常階段が使えない以上、電波塔の各エリアを正規ルートで通過するしかない。エスカレーターやエレベーターは通電。技術的に通電しているはずのない場所まで稼動している。エレベーターを避け、細心の注意をもってエスカレーターを使用。階段やスロープがあればそこを通過。

 敵影は、無し。清掃作業にあたったと思われる金輪部隊の死体をいくつか確認したが、変異活動している個体は無かった。途中、エレベーター以外に通過手段の無い階層に到達。非常階段を確認したがやはり死体とゴミが山積しており、使用不能だった。

 神谷は逃げ場の無いエレベーターに入ることを忌避。オブジェを利用して天井に取りつき、空間演出用の強化ガラス部分を、アサルトライフルで打撃。約二〇分後に破壊に成功、開通部分から上階に登った。この際、大西真由美がガラスで指を切る。売春婦が所持していた炭素繊維の包帯で治療。

 やがて腐食や汚損の気配の無い、第二展望台に到達。非常階段を確認すると死体とゴミの山が途切れていた。疲労に耐えかねた数名が新設の展望レストランに立ち入り、飲食物を物色。神谷は忌避したが、チームの体力と作戦経過時間、エツランシャの撃破可能性をかんがみ、休憩と食事に同意。

 レストランの食物倉庫内は温度が低く、多くの飲食物が良好な状態で保存されていた。その中から、特に安全性の高いものを厳選。缶の膨張や魚の発生の有無を可能な限り慎重に判別し、調理用加熱器で煮沸した。

 ランチョンミート缶詰。アスパラガス缶詰。グリーンピース缶詰。ラフランス缶詰。ようかん真空パック。ミネラルウォーターアルミボトル入り。

 エツランシャまで残り一八四メートル。

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