雪村瞳の通信

 ――こちら雪村。本部、応答せよ。

〈こちら本部。どうした?〉

 ――エンジニアが兵器研究機構の潜伏先を吐きました。各支援基地の座標を送ります。

〈よくやった! 金輪部隊の精神統率システム管理コンピュータは、どこにある?〉

 ――静岡県内、最北地点の軍キャンプです。兵器研究機構のエンジニア達が、軍人と一般人に擬態してひそかに金輪部隊を支援しています。管理コンピュータはキャンプ内に停まっている大型戦車の中だそうです。

〈分かった! 今、強襲部隊と技術者を向かわせた! 雪村チーム、作戦終了してくれ!〉

 ――もうひとつ報告があります。

〈ん? 何だ?〉

 ――聖域潜入チームの無線を聞いていて、裏切り者に当たりがついたんです。こちらのチームの綿野健です。ヤツがおわりの巨人に情報を流しました。

〈なんだと!? 彼は巨人系宗教の専門捜査官だぞ!〉

 ――はい。まどいの巨人以降、すべての派生宗教団体に関わってきたベテラン報告者です。だからこそ、誰よりも内情に詳しい。誰よりも巨人信徒の思想と悲哀に触れてきた。心変わりしてしまうほどに。

〈……信じられん……本人は認めているのか?〉

 ――はい。しかも、聖域潜入チームに外国人部隊をけしかけた黒幕も知っているそうです。

〈それは誰だ?〉

 ――宮城県の軍キャンプにいる三流政治家です。もと栄民党の安堂創あんどうつくる。エツランシャに斬られもしなかったザコですが、元々他国の息のかかった工作員だったので飼い主との連絡手段を持っていました。……綿野健は軍や警察など、複数の組織にまたがって治安捜査活動を行ってきた経歴があります。その過程で多様な国家的危険人物、組織と関係を持っています。日本に滅んで欲しい者、世界を混乱したままにしておきたい者、もっと死人が出て欲しい者。そいつらに片っ端から情報を流したようです。

〈……〉

 ――つまりは、聖域周辺に出現した想定外の敵は、我が国が平時から抱えていた国内危険因子の総体です。エツランシャに勝って欲しい終末論者や外国スパイ、革命主義者が、それぞれの戦闘資源に働きかけて妨害を企てた。これから、さらに邪魔が入る可能性があります。

〈……雪村。綿野健は殺すな。本部に連行して徹底的に取り調べるんだ〉

 ――はあ。

〈なんだ。はあとは〉

 ――いえ、了解しました。生きてはいますので連行します。それと、私が捕まえたエンジニアの方は死んでしまいましたが、かまいませんね?

〈…………今は何も言うまい……通信を終える……〉

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