戦況〇七時三〇分

 潜入チームが聖域内に入った。明確に路面状況の異なるエリアに侵入した瞬間、物陰から数体の金輪部隊変異体が出現。先行していた三田倉九に襲いかかった。三田倉九は至近の変異体に突進、腐敗した人体部分を引きちぎると、死体から露出していた触腕部分に攻撃を加えた。

 蛸のような触腕は、人体頭部に存在する全ての孔から発生していた。三田倉九が頭部を破壊すると、ボール状の触腕の塊が露出。おそらくは脳髄が変化したものと思われる。触腕塊は三田倉九に引き裂かれると粘液を流しながら悶絶。一本一本に分解されるとゆるやかに干からびた。

 触腕は、一塊になっていないと生命を維持できないようだ。しかし触腕の発揮する力はすさまじく、戦闘障害物の乗用車残骸や電柱残骸をなぎ倒す。三田倉九はおよそ一分に一体の効率で変異体を撃破。後方で待機していた他メンバーが、やがて空中電波塔から飛び立つ敵影群を視認。

 飛ぶ脳髄への対抗策として放たれていたドローンと風船は、聖域周辺にはほとんど存在していなかった。神谷が本部と連絡を取ろうとしたが、無線機は災害誘引力により腐食。やがて小向夜子が、西の空に脳髄に追われながらドローンと風船を攻撃する航空機群を発見した。

 我々の脳髄かく乱作戦は、我々以外の勢力の空路安全をももたらしたようだ。国籍不明戦闘機が聖域周辺に展開し、その飛行衝撃によって風船を破壊、追い散らし、ドローンを墜落させている。さらには飛ぶ脳髄をも機銃攻撃し、空中電波塔に復活個体を集結させている。

 聖域周辺空域の様子は各軍キャンプ等からも観測されているはずだ。霧雨隊の出動が望めるが、すでに飛ぶ脳髄が潜入チームを捕捉した。神谷の判断で、金輪部隊変異体と戦闘中の三田倉九を残し、チームは別ルートから前進。空中電波塔に接近する。

 飛ぶ脳髄が地上標的物を襲撃するのは初めてのことだ。攻撃着地は不得手と見え、障害物や地面に高速飛来、衝突しては自滅する個体がある。まるで自爆攻撃だ。ブラインドマンが二名、脳髄と激突して行動不能になった。

 さらに、歩く遺体も大破。同じ人間型にしか乗り移れないらしく、飛ぶ脳髄からは再出現しない。最後の人型攻撃者に乗り移ったとしても、チームに追いつくには時間がかかる。チームは銃撃応戦しながら、メトロの駅入り口に避難。激突死をまぬがれた脳髄を地下から攻撃した。

 約一〇分後、猛攻がやみ、チームを新たに捕捉する脳髄がいなくなった。この時点でアサルトライフル・シルバーコインの総残弾数は五四発。さらに聖域適合性の低いブラインドマンが一名、腐敗、活動停止。三田倉九も合流してこない。

 残存チームメンバー、神谷修二、売春婦、大西真由美、小向夜子、ブラインドマン橋田四郎。計五名で、メトロ路線から空中電波塔を目指す。

 空中電波塔まで、残り二キロメートル。

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