右園死児報告甲 報告七号 金輪部隊エンジニア

報告案件 金輪部隊エンジニア

報告者 雪村瞳(スパイ・リヨン)


 頭部を撃ち抜いて殺害した金輪部隊の装備には、自認識潜没機能が残存していない。そう仮説を立てた報告者が、奪取したジャケットと破損ヘルメットを着装し、敵陣営への潜入を試みた。

 聖域周辺には金輪部隊に志願する人々を受け入れるためのキャンプがある。報告者は五〇〇〇人ほどのコミュニティに接近、問題なく潜入。金輪部隊は自分達と同じ装備をまとった敵を看破できなかった。報告者は金輪部隊の歩き方や口調をまねながら、キャンプを偵察した。

 金輪部隊は志願者達と高度な会話ができるわけではなく、無感情にごく簡単な質問や意思確認を行い、その返答しだいで装備を手渡したり、射殺したりしていた。事前に決められた特定のキーワードに反応して、条件反射的に判断を下しているようだった。

 キャンプにはテントや食料物資の類は無く、代わりにあめ色の液体の詰まったタンクが無数に設置されていた。金輪部隊はこの液体をヘルメット内に注入、満タンにしてから任務に戻る。ヘルメットの中には簡単な仕掛けで動作する経口チューブがあり、これを通して液体が着装者の体内に流れ込む仕組みだ。

 報告者が液体を入手して調べたところ、強烈な甘味と舌のしびれを確認した。濃縮された糖液、栄養剤、何らかの神経作用薬の混合と思われる。金輪部隊が不眠不休で戦い続けられる理由だ。

 これらシステムがエツランシャの意図したものであるかは不明だが、装備の供給を含め、自認識潜没状態下にある者だけで整備できるものではない。報告者はキャンプの維持作業をする専門のエンジニアがいると考え、さらに偵察を続けた。

 その後、夜間にキャンプに乗り入れられた大型トレーラーを確認。運転席から降りてきた金輪部隊一名を尾行し、物陰で制圧した。ヘルメットをはぎ取ると自認識潜没装置が搭載されていないただの仮面で、露出した顔も自由意志を感じさせる健康な人間のそれだった。

 報告者は相手を金輪部隊に協力する正気のエンジニアと断定。暴力で口を割らせ、兵器研究機構の職員の身分を聞き出した。エツランシャのクーデターを支援した組織の者が、自由意志を保った人間として、金輪部隊の戦線を支えていたのだ。

 報告者はエンジニアとトレーラーに乗り、キャンプを脱出。そのまま味方の軍キャンプへと移送した。金輪部隊の戦線維持システムの一端が判明したことで、多少なり対抗手段の芽ができたと言えるだろう。

 現在、エンジニアの尋問を進め、他のトレーラーや稼動している兵器研究機構の支援基地の特定を進めている。情報が出揃いしだい関係各所に通達する予定。ただし、勇み足でトレーラーや基地を強襲してはならない。不用意な攻撃は各地に展開した敵集団の格好の的になることを忘れぬよう留意されたし。

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