右園死児報告甲 報告五号 飛ぶ脳髄

報告案件 飛ぶ脳髄

報告者 軍用戦闘機『霧雨』隊(鳥)


 我が国上空、それも聖域に近い座標で、航空機の乗組員を発狂死させる『鳥』が出没するという情報があった。かつての半透明の巨鳥を連想した霧雨隊が調査撃墜に向かったが、現地で遭遇したのは別の飛行生物であった。

 それはおよそ五〇個ほどの脳髄の群で、肥大増殖した神経線維の束が翼状に広がり、風を受けて滑空していた。霧雨隊は機関砲を解禁し攻撃。すべてを撃墜したが、数分後に新たな群が出現。応戦しつつ発生源を探ると、空中電波塔方面から脳髄が飛来していた。

 要請を受けた地上部隊が超望遠レンズで撮影したところ、神像頂上のまどいの巨人(脳髄)がまたたくたび、その周囲の空間に小型の脳髄が発生し、飛行生物に成長していた。霧雨隊が脳髄を撃墜したぶんだけ、無尽蔵に補充されていることが分かった。

 飛ぶ脳髄はやがて霧雨二号機に取り付き、外装を覆い尽くし、エンジン部に侵入。炎上した。二号機パイロットは脱出できず死亡。霧雨リーダーは戦闘の続行を断念し、戦線離脱を指示した。脳髄の飛行速度は最大で時速一五〇キロメートルほどで、霧雨隊に引き離されると他の飛行物の方へと移動して行った。

 飛ぶ脳髄はエツランシャの制空権維持戦力のひとつであると思われる。今後、航空機の運用に際しては脳髄の存在を念頭に置かねばならないだろう。なお霧雨パイロットのうち、脳髄を至近で目視した者には重篤な精神障害が起こった。留意されたし。

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