右園死児報告甲 報告四号 歩く遺体

報告案件 歩く遺体

報告者 大西真由美(遺体) 小向夜子(小向夜子)


 軍病院で金輪部隊の襲撃に遭った大西真由美は、同病院で健診を受けていた小向夜子と合流、通気ダクトに入り脱出していた。その後は群衆に混じり放浪、幾度となく金輪部隊の襲撃を受けたが、そのたび逃げ延びた。

 追い散らされる群衆のコミュニティを転々とする中、アイスランド大使館の一団と遭遇。同国外務省の救出ミッションラインに乗り、我が国の軍キャンプに送り届けられた。現在二人はしかるべき場所で保護されている。健康状態は良好。しかしながら問題がひとつ存在する。大西真由美の『遺体』である。

 遺体は軍収容所が襲撃された時点で監視システムから解き放たれ、大西真由美の元に移動していた。その後、金輪部隊が遺体を幾度も損壊し、大西真由美が病院を脱出した頃にはわずかな骨片が残るのみであった。

 この骨片は小向夜子が研究用の透明アクリルケースに入れ、スマートホンのカメラをダクトテープで上蓋に固定することで簡易封印していた。アイスランド人達と同行していた時点までは無事だったが、軍キャンプに引き渡された後におわりの巨人信徒が襲撃、アクリルケースをボウガンの矢で射抜かれた。

 骨片はケースから露出、おわりの巨人信徒に踏み潰された。遺体の最後の部位が損壊されたことで、同案件の災害は消滅するかに思われたが、骨片を踏み潰した信徒の全身骨格が衣類と肉体を突き破り自立。大西真由美の周囲を徘徊し始めた。

 この全身骨格は遺体と同じダメージ交換性質を持ち、しかも監視状況にあっても活動を停止しない。理由のいかんにかかわらずダメージが蓄積し行動不能になると、最後の攻撃者、あるいはそれに類する者の骨格が乗っ取られ、新たな活動個体となる。この性質によりキャンプを襲撃した信徒は全滅した。

 全身骨格は大西真由美の半径二〇~三〇メートルほどを徘徊し、けっして大西真由美の視界に入らぬよう立ち回る。視線が近づけば走り出し、道具などを用いて無理に姿を捉えようとすると大西真由美の視力が一時的に喪失する。全身骨格自身の動きにより人間と衝突した場合、その人間は攻撃者とはみなされない。

 我々は全身骨格を、歩く遺体と呼称する。歩く遺体自身が攻撃行動を取ることはなく、ただ大西真由美の周囲を衛星のように徘徊する。一度、軍人達が非破壊拘束を試みたが、身動きがとれなくなるとダメージ蓄積時と同じように他人の骨格に乗り移るため、成功しなかった。

 歩く遺体は現在、大西真由美の協力のもと研究中。エツランシャ撃破の手段となり得るなら追加報告の予定。なお、空中電波塔の神像(複数名称が混在しているため以降この呼び名に統一する)に組み込まれた遺体(大型)にも同様の変化可能性がある。この点からも神像攻撃時は遺体(大型)を避けるべきであろう。

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