報告三八号 冴島将吾の手記八二~八四頁目
報告案件 冴島将吾の手記八二~八四頁目
報告者
して、ミイラは死児として回収された。それにしても神谷さんは超人的だ。あの体力と精神力はとても一般人とは思えない。軍人並みだ。
彼は今、いくつなのだろう? かなりの高齢のはずだ。なのにあのたくましい体はどうだ。まったくガタがきていない。
報告三号『油絵』は、いつの時代のことなのだろう。右園死児報告には具体的な年代や地名の表記があまりない。言語的脅威である右園死児の情報を一か所に集めること、それ自体に危険があると判断されているからだ。どの案件も詳細部はぼかされ、それを知るには個別にアクションが必要になる。
国内のすべての組織人材が最低限の情報共有をするための体系であるわけだが……俺はどうも、報告三号は昭和時代、下手をすると大正や明治にさかのぼる事件であるような気がしてならない。神谷さんは確実に老齢だ。こんな過酷なフィールドワークのできる年齢ではないはずだ。
神谷さんの言動は理知的で、危険なものは感じない。尊敬できる人だ。しかし彼のそばにいると、時々足音が聞こえる。我々のものではない誰かの足音だ。これは報告三号『油絵』に登場する足音ではないだろうか。
神谷さんは油絵以降、ずっとこの足音に取り憑かれているのではないか。
神谷さんは強靭で、勇敢だ。信じがたいほどに戦士的だ。そして何かに侵されているか、守られている。死児のミイラに接近した俺は瞬時に白髪化してしまったが、神谷さんの髪は黒いままだ。神谷さんには右園死児に対する、何らかの守護が働いている気がしてならない。
そのせいで神谷さんは、右園死児調査の最前線に留まり続けている。たった一人で。
俺は蛆主宿儺の決着をつけるために、彼と別れねばならない。これ以上右園宮で活動する生命力が俺には無い。またあの村に行き、蛆主宿儺信仰の方の調査を掘り下げるつもりだ。
彼が心配だ。
六月三日。雨。
※これらの頁が発熱発火し、他の頁を焼滅させてしまったため、汚染体指定とした。
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