報告三七号 カタコンベ・蛆虫

報告案件 カタコンベ・蛆虫

報告者 神谷修二


 右園宮の調査を続けていた神谷修二が、山野の滝壺内に人工的な階段を発見した。山野内では出土品の損壊、死児への接近など、精神的肉体的ダメージの引き金となる行為が多数存在するため、神谷以外の人材を協力派遣することは忌避されていた。

 しかしながら、軍は神谷の専門家としての価値を重視、未到達階層へ向かう彼に四人のブラインドマンと、AIを抜き取った無線操縦式の試作型ブラインドクーガーを貸与した。神谷チームは潜水具を装備し、滝壺内の水没階段を潜行、一〇分五〇秒後に約二〇階分の縦穴状空間に到達した。

 神谷チームは縦穴を六時間かけて降下。途中複数のミイラ化した死児と遭遇し、ブラインドマン一名が発狂、処分した。最下層に到達すると、さらに一名が発狂、処分。原因を精査したところ、縦穴の底は地面ではなく、死児の死骸が堆積してできたものだった。約五〇メートル四方が、死児で埋まっていた。

 神谷は縦穴を死児のカタコンベ(地下墓所)、右園宮の中枢と認め、これ以上の探索は不可能と判断。一時帰還しようとした。しかし突如死児の中から何者かが浮上、ブラインドマン一名を捕食した。

 フレアの明かりに浮かび上がったのは、全長一〇メートル以上の蛆虫のような生物であった。神谷はこれを死児の一種か、堆積した数多の死児の災害誘引力によって変貌した野生生物と認識。縦穴を戻りつつ残る戦力で撤退戦を行った。

 蛆虫の腹には人間の手首に似た脚が無数にあり、これが巨体を押し上げ坂道を登って来た。ブラインドマンの機関銃とブラインドクーガーのアルミ弾ライフルで応戦すると極めて多量の出血が認められたが、敵の勢いは衰えず最後のブラインドマンが捕食された。蛆虫の口は小さく、人間のそれに酷似していた。

 神谷はブラインドクーガーを操縦しての帰還を不可能と判断。背負っていた酸素ボンベを外し、坂道途中のミイラ化した死児へ転がした。追跡してくる蛆虫の挙動に合わせ、クーガーのライフルを発射。ボンベを爆破し、死児の肉片幕で蛆虫を穴底へと押し返した。クーガーの射撃命令をエンドレスにし、逃走。

 縦穴を登り続け、処分したブラインドマンの酸素ボンベを回収すると、滝壺に続く水流へと飛び込んだ。蛆虫の追跡を察知しつつ、やがて水上へ脱出。滝壺から離れたところで蛆虫が浮上したが、日光に当たると奇声を上げて苦しみ始めた。蛆虫は視力を持たぬらしく、階段に戻らず滝壺周辺でもだえ続けた。

 神谷の連絡を受けた軍が新たなブラインドマン部隊を派遣した時には、滝壺は死滅した蛆虫とその体液で汚染埋没していた。除染作業は難航し、現在も継続中。蛆虫の死因は不明だが、外皮が炭化しており、日光に過剰反応する生物であったと想像される。


 ※右園宮に関する民俗学的考証・仮説・創作は十分に山積している。閲覧者には実益的な情報の提供を期待する。

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