調査班夜烏解体後に出回った暴露案件
報告案件 意味不明の音声データ
報告者 不明
――嘘をつくな。俺の時間を無駄にすると、痛い目に遭うぞ。
――算数もできんと見える。右園死児の起源は平安時代、今から一二〇〇年前。私の年齢はたかだか一八〇。間に何年ある?
――……。
――何も知らない。私は生まれた時から一人だった。
――もっと神経を掘れ。
――(奇声)
――貴様は我々が初めて捕らえた、人間や物体から変身したものではない、高度な言語能力を持つ、純粋かつ一次的な右園死児だ。どんな手を使ってでも口を割らせる。
――……最初から黙秘していない。お前の質問にはすべて答えているだろう。牧野。
――右園死児とは何だ。貴様は、貴様らは何だ。なぜ我々人類を蝕む。
――怖いのか、牧野。
――俺の名を呼ぶな。
――その顔色を、私は何度も見てきた。長くないんだろう。病か。牧野。あと何ヶ月の命だ?
――神経を掘れ!!
――(奇声)……私をすべての元凶だと確信できれば、お前はどんなにか楽になれたろう。七五年の人生を決着をもって終えられたのに。だが……私は黒幕ではない。ただの現象だ。
――現象だと?
――大前提だったはずだ。右園死児は現象としての災害なのだよ。特定の生物や種族は、その形態のひとつに過ぎん。
――……。
――分かるよ。牧野。現象と戦うのはあまりに困難だ。道のり遠く果ての無い足掻きが必要になる。ちょうど病に対するようにな。
――……。
――そう、我々は、病のようなものなのだよ。
――……。
――人は病を理解しているわけではない。病がどこから来て、なぜ自分達を蝕むのか知らない。ただその症状と被害を研究し、個別に対応するだけだ。ウイルスや遺伝子が原因の一端を担っていると推測できても、病それ自体の存在理由を知らない。
――たわごとは沢山だ。真実を吐け。鹿田丸。
――真実? 真実はとうに吐いている。私は自分が何者か知らない。お前達人間が、人間とは何かを正確に知らないように。霊長類? ヒト科? すべては仮に定義した意味のない類型だ。人間とは何だ? いつ、どこで、なぜ発生した? なんのためにいる?
――神経を
――私の行為は私の意志によるものだ。
――……。
――習性でもなければ本能でもない。ただお前達人間を操作したかった。人間の未来を蝕みたかった。だから自分の意志で、自分の絵図を描いた。お前達の社会で成長し、大成した。
――明治政府に入り込んだ。
――誰よりも優秀だった。政治的正当性を装い大勢を不幸にした。楽しかった。
――獅子身中の虫だ。
――いや、それは違う。私は永く楽しみたかった。だから最後の最後ではいつもお前達の味方をした。
――味方?
――あの大戦。勝っただろう?
――何だと!?
――形式的には敗戦だ。だが実質的には勝った。私のおかげだ。
――ふざけ……!
――あの大戦を語る時、自称戦勝国の連中はどんな顔をする? 得意げに、誇らしげに振る舞う者がいるか? 我が国は法を失わなかった。軍を失わなかった。不当なものを押し付けられず、未来に負債を残さなかった。私のおかげだ。
――痛覚を掘れ!!
――私がこの国の歴史をねじ曲げた!!
――我々の歴史は我々のものだ! つけ上がるな化け物!!
――そう、ここ数十年は、お前達の歴史だ。誤算だった。右園死児の概念を得たお前達が、ここまで暴走するとは思わなかった。
――(物音)
――このブラインドマンは何だ? なぜこんなものを作る? 寄生体としての私に栄養と舌を与えるためだけに彼は犠牲になった。
――(騒音と奇声)(雑音)
――お前達は、立派な災害だよ。純血の右園死児であるはずの私よりも災厄をばらまいた。私をも謀殺した。何度も。何度も。
――……そうだ。貴様は、なぜみずから右園死児を名乗った? なぜだ。どうしてだ。
――分からない。生まれた時にすでに頭の中にあった。自認識が。
――(うめき声)(雑音)
――牧野。怖いだろう。右園死児という国難と戦うため、あまりに多くの罪を犯した。ブラインドマンの戦闘原理を承認したのもお前。報告体系にまつわる粛清を指示してきたのも大抵はお前だ。国を動かす者として極めて邪悪に振る舞った。
――……。
――私と同じだ。だから分かる。
――鹿田丸先生……。
――そう。君達親子は、私を先生と呼んだ。助けて欲しい時だけな。
――俺は、あと一ヶ月なんです。
――残念だ。牧野君。私は諸悪の根源ではないから、君の人生の意味にはなってやれないよ。地獄には、一人で行きたまえ。
(とても長い雑音)
――あの化け物。始末しろ。今すぐに。…………やかましい!! 俺は
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