第6話 カップルサービスデー

「お姉さ~ん。一緒に遊ぼうよ~」

俺が手洗いから戻ってくると咲が男二人組に絡まれていた。

…ん?あの二人組どこかで?


「おい」

「なんだ~!今忙し…え?お、お前…!」

昨日の通学途中にナンパしていた二人組だった。

「昨日ぶりだな」

「「す、すいませんでした~!!」」

陸上選手よりも速いんじゃないかと思うぐらいのスピードで走り去っていった。


「大丈夫か?」

「うん。助けてくれてありがとね♪」

「おう」

「じゃあクレープ屋さん行こ!」


俺達は目的のクレープ屋に到着した。

すごい行列だという話を聞いていたが、今日は平日だからか人はそんなにいない。


「空いていて良かったね♪」

「だな」

あっという間に俺達の注文の番がやってきた。

「いらっしゃいませ!もしかしてカップルさんですか?実は今日カップルサービスデーなんですよ~♪」

「は、はい…」

咲が顔を赤くして恥ずかしそうに答えた。


…うん。俺達ってカップル…なのか?

そういえば俺付き合おうとか言ってないよな~。その辺りもちゃんとしないとな。

ってかカップルサービスデーって何??


「あ、あの~、お姉さん?カップルサービスデーとは?」

よく分からないので店員のお姉さんに聞いてみる事にした。

「はい!カップルさん同士でキスをして頂くとクレープが一つ無料になるんですよ♪」


…は?なんじゃそりゃ!?なかなかハードル高いなー。ってかここでキス!?無理無理!

ってか店員さんめっちゃニコニコしてるな!


「あ~。今回はちょっとやめて…」

「や、やりますっ!」

ん?咲さん!?やらないよ!ってか人がいる所でなんて無理だって~!


「か、和樹はキスするのイヤ?」

上目遣いは反則だって~!断れないじゃん!

「イ、イヤじゃねぇよ」


「ではキスを彼女さんからお願いします!」

…お姉さん!!お願いします!じゃねぇよ!


覚悟を決めるんだ!俺ーー!!


俺は目を瞑った。

柔らかい感触が伝わってきた…俺の右頬に。

「え?」

「はい!彼女さん、ありがとうございます~!」

咲は顔を真っ赤にしている。

…そ、そうだよなー!頬だよな!アハハハ!


「彼氏さ~ん、もしかして違う所に期待してたんですか~?」

お姉さんがニヤニヤしながら言ってきた。

「し、してませんよ!」

「彼氏さんの方からも彼女さんにお願いしま~す!」

「え?俺からも?」

「お二人共にやって頂かないと意味がないですからね~!」

「は、はぁ…」


咲が顔を真っ赤にしながらこちらを凝視している。

「咲?目瞑ってくれねぇか。めっちゃやりにくいわ…」

「う、うん…」

俺はめちゃくちゃ緊張しながら咲の左頬にキスをした。


「は~い!お兄さんもありがとうございま~す♪それじゃクレープ一つサービスさせて頂きますね♪」


一つサービスしてもらえる事になったので、

もう一つだけ注文した。

「お待たせしました~!デート楽しんで下さいねっ!」

そう言ってお姉さんは俺にウインクしながらクレープを渡してきた。


「あっちの方にゆっくり座れそうな所があるからそこで食べるか」

「そうだね♪」

俺達は座ってクレープを食べだした。


「上手いな!これ!」

「だよね♪美味しい~!」

「そういえばさカップルサービスデーっていうのがあるって咲は知ってたのか?」

「…う、ううん!知らなかったよ!!」

咲は首をブンブン振っている。…怪しいな。

まぁ深く追及するのはやめとこう。


クレープを食べた後、雑貨屋などを見て回って今は電車に乗っている。


「もっと色々な所回りたかったなー!」

「また来ればいいだろ」

「また一緒に来てくれる?」

「おう!ただカップルサービスのやつは勘弁してくれ。人前であれは恥ずかしすぎる…。」


「…人前じゃなかったら良いの?」

咲は小さな声で聞いてきた。


「じ、状況によるな…」

「…そっか」

変に意識してしまった事でなんとなく気まずい雰囲気になってしまった。


電車を降りた後も変に意識してしまい無言で歩いていた。

気付けば咲の家の前に到着してしまっている。

「今日はありがと。じゃあまたね」

「…咲」

「どうしたの?」

「あ~…さっき電車の中で話してた事だが…その~人前じゃなければ良いと思うぞ!

…すまん。さっきはまた変に意識しちまった」


「…そっかぁ~!意識してくれたんだ♪

それなら許してあげましょう!…アハハ!」


…許してもらえたようだ。


「和樹。ちょっとしゃがんでくれる?」

「ん?ああ」


俺がしゃがむと咲は俺の耳元に顔を近づけてきた。

「さっきのクレープ屋さんでしてくれたキスね、こっちにしてくれても良かったんだよ♪」

咲は人差し指で自分の唇を指さしていた。

「は、はぁ!?」

俺は思わず後ろに仰け反った。

「フフフ♪和樹ってば動揺しすぎでしょ♪」

「お、男にそういう事軽々しく言うなー」

「心配しなくても和樹以外にはこんな事言わないよ♪」

「…そ、そうか」

おそらく俺の顔は今真っ赤になっているだろう。

「じゃあまたね!和樹!」

「お、おう」


カップルサービスデーに振り回された俺の一日はこうして幕を閉じたのだった。

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