二章 桜の樹の下

第13話

私の十歳上の従兄は高校生の時、野球部のエースだった。それでよく試合を見に行った。

その日も暑い中、試合があった。県で一番広い校庭を持つ光台高等学校で行われた。八年前、七歳の私は父と母に連れられながらここに来たのだ。

試合が終わり、帰り道。校庭から校門までの短い距離で、私は父と母とはぐれてしまった。気がつくと二階建ての建物が見えた。

二階から人の声がした。私はその建物に近づいた。

二階の外をぐるっと囲む廊下に人影が見えた。私は外階段を上り、その人に助けを求めようとした。


『あ』


階段を登るために下を向いていた。上を見ると先ほどの人影はもう廊下にはなかった。

人が落ちていく。地面は堅いから、死んじゃう。

手を伸ばして、声を出した。

そのどれもが短く小さく届くことはなかった。

それでも私は一生懸命に…

どて。

二階建てとはいえ、かなりの高さ。更に下はコンクリート。その人は頭からどくどくと血を流して倒れていた。

その後のことはよく覚えていない。

気がつけば私は父と母のもとにいた。

あの後色々調べてみたけど、高校で大怪我や死亡といった情報はどこにもなかった。


『光台高等学校、2年生。夏目慶一なつめけいいち。178センチ、75キロ。行方不明。』


その記事を見てからというもの、私は使命を背負った。

この人は確かに存在していた、この人の居場所はあったと証明しなければならない、と。

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